PR活動 増々加速する”縦型”

PR活動 増々加速する”縦型”
2020年8月31日 ninefield

現在、スマートフォンやタブレットといった”縦型デバイス”で、様々な場面やライフスタイルの中で動画を見る機会が世界的に伸びています。特に10代から20代が一日の中で、もっとも多く接しているメディアは「スマートフォン」という調査結果があり、若年層の間では動画視聴のメインストリームへ成長しつつあります。また、ある調査によりますと、20代の約4割がスマホを縦向きのみで視聴すると回答していて、今までYouTubeなどの動画を見る際に一般的だった「画面を横にして」の動画視聴は減ってきています。これを裏付けるかのように、ここ数年で、「Snapchat」や、日本発の女性向け動画メディア「C CHANNEL」、中国発の「TikTok」それにInstagramの「ストーリーズ」など、縦型動画を前提としたプラットフォームの拡大が進み、自然に受け入れられている要因のひとつとして挙げられます。

また、スマホを活用したライブ配信とも相性がよく、Twitter社提供のライブ配信アプリ「Periscope」も縦型配信に対応しています。こうしたサービスの拡充により、次第に縦型の動画コンテンツも増加しています。フォーマットが縦型になったことで、環境や時間に関係なく動画を視聴することがますます簡単になることが予想されます。今回はこの「縦型動画」にスポットを当て、ブームの背景と今後を探ります。


 

 


縦型動画「伸張」の背景

縦型動画が流行している理由の一つに、ユーザーの動画視聴環境の変化が挙げられます。スマートフォンユーザーが増えてきたことで、電車の中や職場・学校など、様々な環境で動画が手軽に視聴可能になりました。特に通勤や休憩時間といった、空いた時間で簡単に動画が見られるようになったのは画期的といえるでしょう。

この背景には、インターネット環境の飛躍的な向上があることも見逃せません。「4GLTE」という名前でおなじみの「次世代高速携帯通信規格」が普及したことで、外出先でも不便なくインターネットが使えるようになりました。また、動画のダウンロード時間も短くなったことは、縦型動画普及の大きなバックボーンになっています。

こうした環境の変化は、当然、広告費の伸びにも現れます。大手IT企業「サイバーエージェント」の市場調査によりますと、スマホの動画広告市場は、2018年には1,563億円でしたが、2023年には4,709億円とわずか5年で「3倍」に、急上昇することが予想されています。最近はテレビからネット、とりわけスマホやタブレットをターゲットにした広告へのシフトが顕著です。

 

女性の支持が多い縦型動画

縦型動画の視聴者は幅広い年齢層の女性です。女性は男性に比べて手が小さかったり、荷物で手がふさがったりすることもあるため、スマホを横にして動画を視聴することへの抵抗があります。先述の「Snapchat」「C CHANNEL」「TikTok」「Instagram ストーリーズ」などは、いずれも女性を中心に支持を獲得しているサービスですが、縦型を前提にしている根底にはそういった傾向への配慮と戦略が支持されているといえるでしょう。

また、女性の関心が高いメイクや全身コーディネートの動画は、縦に長いことでインパクトが出たり、表現の幅が広がったりするので縦型動画に向いています。こうした環境もあって、女性の方が縦型動画との接触回数が多く、抵抗も少ないため、女性をメインターゲットとする場合は有力な選択肢の一つになりそうです。

 

縦型動画活用を仕掛け始めた欧米メディア

全世界的な「スマホシフト」の動きにいち早く呼応し、積極的な活用にチャレンジしているのが、欧米ニュースメディアです。
欧米のニュースメディアでは、「デジタル・ストーリーテリング」と呼ばれる動きが出てきています。これは、ニュースの内容や情報の分量によって、文字や映像・音声だけでなく、写真やCG、立体図などを組み合わせたグラフィックスを使い分け、そこに双方向の要素を加えることで、より効果的に伝える手法のことです。新聞やテレビなどの単一のプラットフォームを凌駕するとされ、縦型映像も、デジタル・ストーリーテリングをスマホで展開する上で効果的だとして、活発な仕掛けが始まっています。例えば、イギリスの公共放送として、日本でも有名なBBCニュースでは、4年前からスマホアプリ内で「Videos of the Day」というコーナーを始め、横型に撮影した映像を縦にトリミングし、スマホユーザーから好評です。

アメリカでは、全米三大ネットワークの一つ、NBCテレビが、3年前の7月から、Snapchatで「ステイチューンド」という番組を始めました。Snapchatは自撮りにデコレーションを書き込んで友だちに送るなど、個人的なやりとりとしての使い方が定着していますが、NBCはそこにニュースを仕掛け、新しいコンテンツの楽しみ方を提案しました。出演者はいずれも20代から30代で、従来のニュース番組とは一線を画したカジュアルなスタイルで「君たち、これ、見といた方いいぜ!」と、語りかけるなど、若者を意識したコンテンツづくりを心がけています。

先述しましたが、縦型動画は「スキマ時間」で視聴するケースが多いので、尺の短いものが求められます。これを踏まえて「ステイチューンド」でも、放送時間3分で10本程度のニュース項目と、「短時間多項目」の編集方針ですが、「1カットが5秒前後」と、必然的にコンテンツの切り替えが速くならざるを得ません。加えてSnapchatもリンク先へ飛ぶ機能が充実していないので、ニュースを初めて見聞きする人には、立ち止まって考える暇が与えられていません。このため、「一報のその先」の関連情報に飛ぶ機能を、将来どのように付加するかが視聴回数を増やす課題と指摘されています。

欧米メディアが相次いで縦型映像市場の開拓に名乗りをあげているのは、「ジェネレーションZ」と呼ばれる22歳以下の若いユーザーを引きつけたいことが最大の理由です。1997年以降に生まれた彼らは、ニュースに関心が薄いことに加え、全米においては、10代の9割以上がスマホを利用しているという統計もあり、彼らが日常的に利用しているソーシャルメディア上で、「何だろう、これ?」と自然に入っていけるコンテンツが求められています。さらに、双方向という面でも、スマホの縦型動画であれば、ユーザー自身も撮影や投稿がしやすくなるメリットがあります。

 

5Gの普及が追い風に…

こうした環境にさらなる追い風として期待されているのが「4GLTE」の次の世代の通信規格「5G」です。通信スピードは4Gの20倍、同時接続端末数は10倍、遅延速度は10分の1と文字通り、「夢の通信規格」です。通信スピードの高速化で、4Kや8Kといった超高画質の動画や映像を「手軽な」縦型デバイスで見る場面が増えることは、世界の映像業界に革命をもたらすでしょう。すでにNTTドコモ、au、ソフトバンクの携帯大手三社は5G到来を見据え、さまざまなコンテンツを用意していますが、中にはスマホ画面の向きに応じて、実写とアニメが切り替わったり、縦型動画に特化したコンテンツを配信したりと、新たな提案が続々と登場しています。通信の高速化で、スマホでの動画視聴が、メインストリームとなり、縦型動画が新たなコンテンツ、サービスを生み出す源泉となりつつある今、これから映像業界を志す人は「縦型動画」も必要なテクニックの一つになってくるでしょう。いや、むしろ「横型動画」がレガシーとされる日もそう遠くは無いのかも知れません。

 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 有明 雄介