生放送の指揮官OAディレクター

生放送の指揮官OAディレクター
2021年1月4日 ninefield

ディレクターという名前は耳にしたことがあっても、「OAディレクター」というのは聞きなれない方も多いかも知れません。文字通り、OA(オンエア)に立ち会って、スーパーやカメラのスイッチング、あるいは音出しのタイミングなどを、技術の担当者に指示します。たまにドラマやバラエティ番組にも登場するので、見かけた方も多いでしょう。局によっては、「卓D」「プログラムディレクター」「パイロットディレクター(=いずれも略称はPD)」、「ピッチャー」などと呼んだりしますが、その役割はほぼ一緒で、いわゆるサブ(=副調整室)の司令塔を任されています。日本語に訳せば「番組の演出担当責任者」といったところでしょうか。生放送、収録を問わず、番組を送り出す中心的存在で、文字通り、番組進行の要といっていいでしょう。ただ、最近はいきなり新人ディレクターが卓に座るケースも現れるなど、長年の現場の風景に変化も出始めているようです。今回はOAディレクターの仕事を紹介しつつ、求められる人材像や就職の方法などについて、探っていきます。



 

 



違和感ない放送はOAディレクターの腕の見せ所

このように、放送の送り出しの肝の役割を担うOAディレクター。その仕事は多岐にわたります。まず、前提として、番組の構成や演出意図に沿い、常に視聴者を飽きさせない、より分かりやすくすることを心がけ、スタジオでの絵作りやカット割りを提案していきます。OA前はTK(=タイムキーパー)と一緒に進行表(=Qシート)を確認。カメラリハーサルではFD(=フロアディレクター)と連携しながら段取りを進めます。最近はQシートの内容を予め、放送局の送出用のパソコンに打ち込んで、電子Qシートを作り、対応する場合もあるようです。番組が始まれば、各担当へ怒涛の指示を飛ばします。スイッチャーには、「1カメ」「2カメ」といったスイッチングアウトする画面の指示、音声や音効担当には、音量、音素材のタイミングの指示、中継があれば、中継担当のディレクターやコーディネーターへの指示とその対応は目まぐるしさを極めます。これは他の業界ではなかなか体験できません。さらにテロップの操作も担当する場合があり、時間を見ながら、TKと共にCMや提供を確実に消化していく姿は、ときに「神業」にすら映ることもあります。長尺のVTRやCMといった数分のインターバルの間にも、残時間を気にしながら、次のコーナーの打ち合わせやカメラワークの確認作業をこなすなど、本番中、集中力、判断力が途切れることはありません。常に番組全体の流れを考え、各スタッフに最善の仕事をしてもらえるように、冷静かつ的確な指示を与えていきます。一歩間違えば放送事故と背中合わせの危険性を孕んだ現場ともいえ、生放送が、スムーズかつ違和感ないように放送されるかは、OAディレクターの腕にかかっているといえます。

 

大都市圏と地方で違うOAディレクターの業務

このように、責任重大といえるOAディレクターの業務ですが、東京や大阪といった大都市圏と地方では、少し事情が違います。まず、東京や大阪などの大都市圏では、OAディレクターは基本的に専業です。例えば、在京キー局の朝の生ワイドであれば、日曜から木曜の平日、毎日、終電で局入りし、先述のような、打ち合わせやリハーサルをこなした後、朝5時半から2時間半の生放送に臨みます。コーナーVTRの編集には基本的にタッチしません。これに対し、地方局では、自分が制作や編集した番組の送出を担当することもディレクターの仕事の範疇になります。従って、帯番組(月~金の平日に放送される番組)の場合、一人のディレクターが全ての曜日を担当することは稀で、大抵は週2~3日というペースで制作にあたっています。専任のOAディレクターを置く場合は、報道部や制作部の管理職が卓に座ったりすることもあります。放送の全体がわかるポジションなので、ここで若手に放送の基礎を学んでもらおうと、最近はOJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)の一環で、ベテランのOAディレクターが若手のディレクターとチームを組み、仕事の内容を教えながら、後に続く世代を育てる現場も出始めています。

 

OAディレクターに求められる人材像

サブの司令塔という性格上、OAディレクターは生放送中、様々な判断を瞬時に求められます。何が起こっても冷静沈着で、技術スタッフやフロアディレクター、現場によっては、司会者に的確な指示を出せなければ、混乱を助長しかねません。ましてやOAディレクター自身がパニックになってしまったら、放送自体がダッチロールを起こし、墜落してしまいます。トラブルが起きても慌てず、放送全体を俯瞰し、どの対応がベストかを常に考えられる人が求められます。そのためには、経験ももちろんですが、経験だけで補えない部分は、普段から先輩ディレクターの動きを観察し、どんな対応をしたかを覚えておくとともに、「自分ならこうする」というイメージトレーニングを重ねていくことが大切でしょう。取材や編集担当のディレクターであれば、限られた時間の中でも、ある程度のこだわりを入れ込むことが可能ですが、OAディレクターは、放送中、常に状況判断をしながら、その時々で最善の選択をしていく臨機応変さが求められます。その意味では乗り物の運転士と似ていて、「パイロットディレクター」の別名があるのも頷けます。先述のOJTなどは、まさに自動車学校で教官が生徒に運転技術を教える姿と相似します。この他、多くのスタッフを統括するので、コミュニケーション能力が必須なことは論を俟ちません。

 

OAディレクターになるには

近年はOAディレクター、FDを専門に派遣する会社も出始めているようですが、放送局、制作プロダクションを問わず、OAディレクターを専門で採用しているところは、まだまだ少数派です。大抵はADから出発し、FDや取材・編集担当のディレクターで経験を積んで、OAディレクターに昇格するのが一般的です。ですから概ね経験10年以上のベテランディレクターが多いです。もっとも、最近は、現場によってOJTを重視し、先輩ディレクターが付き添いつつ、いきなり「送出卓デビュー」をする場合もあるようです。また、地方局の場合は先述の通り、取材・編集のディレクターがOAディレクターを兼ねるケースが多いので、制作部員として採用される雇用形態が殆どです。この場合もADやFDが振り出しで、規模の大きな番組の場合には、サブDなども経験しながら、最終的にはメインのディレクターになっていきます。一方で、これまで紹介してきた徒弟色の濃さとは別に、「OAディレクター、FDの専門会社」からの派遣の場合、OAディレクターは、台本作成やVTR編集といった作業に関わる必要がなくなるので、FDの専業と同様、規則的な勤務が保証され、肉体的な負担は軽減されます。多くの場合、一足飛びになれる職業ではありませんが、OJTが充実している現場もありますし、テレビ放送の流れを概観できるという意味では、まさに打ってつけのポジションだといえるでしょう。テレビ業界への就職を考えている人にとっては、まずはキャリアを積む上で選択肢になり得ると言えるのではないでしょうか。

 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 有明 雄介