拡大の一途をたどるゲーム実況

拡大の一途をたどるゲーム実況
2021年2月8日 ninefield

市場の拡大が続いているゲーム業界は以前にも増して、盛況に沸いています。単に自分でゲームを楽しむばかりではなく、攻略法を教える「ゲーム実況」といった分野が、動画投稿サイトで著しい人気を博しています。ゲーム実況は言葉を媒介にしない場合も多く、国の垣根を越えることが容易なので、市場は無限に広がると言えます。ただ、ライブ配信、オフライン(録画編集)配信を問わず、著作権の問題から、ゲーム実況そのものに難色を示すメーカーもあり、業界内で対応が分かれていることも要注意項目になっています。今回は拡大一途のゲーム実況の現状や問題点、さらには映像業界がどう関わったらいいかについて、探ります。



 

 



映像コンテンツとしてのゲーム実況

他人のゲームプレイを見る楽しみは、古くは将棋や囲碁などに端を発していますが、いわゆる電子ゲームという分野では、1970年代末のゲームセンターで、上手なプレイヤーのスーパープレイを鑑賞するところから始まりました。数年後、ファミコンが大ヒットし,家庭でゲームがプレイできる環境が整うと、学校帰りに、数人の友人が集まって、誰か1人がゲームをプレイし、残りの全員が「批評して楽しむ」文化も生まれ、カードゲームから主役の座を奪うことになります。ゲーム実況は、この感覚の延長線上にあります。2000年以降は、お笑い芸人がゲーム実況をする番組が生まれ、映像コンテンツとして、ヒットにつながることが証明されました。

さらに、映像コンテンツとしてのゲーム実況は、2005年に登場したYouTubeで大きく発展します。いわゆる「おもしろ動画」、「やってみた系動画」などとともに、オンラインゲームの対戦動画や実況配信動画が人気を集めることになりました。カリスマゲームプレイヤーが一世を風靡し、同時にゲームのプレイ自体を、自身の収入に結び付ける新しい職業プレイヤーが生まれてきました。彼らは、ゲームに独自のエンタテインメント性を持たせて、配信したり、攻略ポイントを動画で丁寧に教えたりして、いわゆる「大会に参加して、賞金や名誉を獲得する」プロのゲームプレイヤーとは異なる市場の確立に成功します。2000年代に入り、東日本大震災を過ぎたあたりには、ステージイベントなどで、女性を中心にした「観て楽しむ」ファンも増えるようになりました。現在はYouTube以外にも、PeerCastやニコニコ動画、ニコニコ生放送、Ustream、Twitchといったプラットフォームに拡がり、市場は一層の隆盛を極めています。

 

ゲーム実況興隆の背景

ゲーム実況がここまで盛んになった背景に挙げられるのは、ずばりプレイヤーのプレイスタイルの多様化です。ゲームが年を追うごとに複雑化し,誰もがストレスなくプレイを楽しめるわけではないことが、逆に挑戦心を煽り、課題をクリアするためのテクニックを学ぶヒントにつながっています。他人のプレイを見ることで,難度が高く、自分ではクリアできないタイトルの攻略ヒントを探ったり,また、同じタイトルの別の側面を発見できたりして、次に買うゲームの参考にします。

 

ゲーム実況を取り巻く現状と課題

現在,ゲーム実況動画は,個人による配信の他、メーカーの公式番組やプロモーションなどにも採用されています。こうした公式動画に出演するプロの「実況プレイヤー」も出現し,個人によるプレイ動画の配信を公認するメーカーやタイトルも現れました。これはメーカー側がいわゆる「インフルエンサー」に依頼して、ゲームの売れ行き向上につなげたい思惑と合致します。さらに,次世代ゲーム機には、「プレイ動画共有機能」が備わる予定で、従来以上にメーカー側も,積極的にプレイ動画配信に取り組み始めています。

しかし、メーカー側が「セールスポイントばかり」を発信すると、「ユーザー同士のコミュニティに企業が関わってほしくない」という考えのプレイヤーは反発しますし、宣伝に食傷気味の視聴者も離れていきます。また、プレイ動画にはゲームの面白さなどを伝えるプロモーション目的のものが多く、動画を見ただけで「プレイした気分」になってしまい,自分ではプレイしない人達も出てくるでしょう。事実、メーカーによっては、ゲームストーリーの「ネタバレ」を防ぐため、ゲーム実況を著作権侵害とする企業もあって、業界内の足並みが揃っていません。いずれにしても、メーカーがガイドラインを定めている場合、順守することが、末永くゲーム実況を楽しむ上で、最重要と言えます。

 

ゲーム実況番組の今後

タレントをはじめ、有名人によるメーカー主導の実況動画が増え、産声を上げた当初とはだいぶ様相を異にしてきたゲーム実況の世界。伸び悩みを指摘する声もありますが、今後、次世代機の登場などで、動画配信のハードルが下がれば、ゲーム実況は特別なものではなく、「ゲームの楽しみ方として当たり前」のものになっていくことは論を俟ちません。ゲームをプレイする上での「お試し動画」としての役割も期待されるでしょう。
何よりもゲームの本質は、実際にプレイしている人の姿が見えてこそであり、ゲーム実況はテレビショッピングの実演販売のような存在といえるかも知れません。メーカーにとっても、単に商品を売るだけではなく、ゲーム実況で、実際のプレイヤーが感じたポジティブな思いを広めて、多くの人の共感を呼ぶ手法は、のどから手が出るほど欲しいはずです。

 

ゲーム実況と映像業界見出し

近年はeスポーツと称し、諸外国では、ゲームがスポーツとしての正式種目に採用され、社会的な認知度が高まっています。現に韓国ではケーブルテレビに、ゲーム専門チャンネルがあり、盛況を博しています。映像配信の手段にオンライン配信が加わったいまは、視聴者数も全世界的に増え、障害者のリハビリにも効果が期待されるなど、以前とは比べ物にならないほど、評価が向上しました。ただ、日本の場合、先述のように、家庭用ゲーム機が普及していて、PCゲームになじみが薄い上、景品表示法や賭博罪などとの兼ね合いで、高額の賞金がかかる大会の開催も開けませんでした。この問題を解決しようと、東京五輪に向け組織委員会が提案し、4つのeスポーツ団体が、日本を代表する消費者団体と協力の下で、eスポーツの大会を賭博罪に関する規制から除外することが実現しています。つまり、今後、さらなるブームが起こる可能性があり、実況中継のディレクターやエンジニアが不足する事態が予想されます。映像業界が新規参入するチャンスはかなり多いといえるのではないでしょうか。

 

プロとの化学反応に期待

ゲーム関連のエンタテインメントは、ライフスタイルの変化やテクノロジーの進化に応じて、姿や形を変えながら、これからも人気を集めていくでしょう。そして常に、「新しいデバイス」「新しいメディア」そして「新しいコンテンツ」が必要です。映像業界側の立場でいえば、これまで異分野の中継や番組制作で培ったノウハウをゲーム実況の制作現場に活かすことは充分に可能です。素人のみの配信ではなく、プロを交えた実況動画の制作は、新たな化学反応を生み出すことは間違いありません。よりよい実況動画を作るためにも、プロへの相談をぜひおすすめします。

 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 林 要