街頭インタビュー(街録)のコツ

街頭インタビュー(街録)のコツ
2021年2月22日 ninefield

ニュースや情報番組、それに最近はバラエティ番組で欠かせない「世間の声」としての一般の方への街頭インタビュー。実は簡単なようでいて、意外に難しいです。どんなに経験を積んだベテランアナウンサーやディレクターでも、警戒され、断られ続けますが、こうした挫折にめげない心も制作現場には必須です。近道や王道はないジャンルですが、経験を積むことで、応じてもらえそうな人が、何となくわかったりしますし、編集の仕方によってはトラブルになるケースもあります。今回は街頭インタビューのコツについて、探っていきます。



 

 



街頭インタビューを行う理由

街頭インタビューを行う理由は大別して2つあります。一つは世の中の意見や考え方が知りたくて質問する場合。もう一つはある特定のフレーズを引き出したい場合です。
報道現場は、一つの問題について、できるだけ両論併記をしようとするので、多様性に富んだ意見を吸い上げようとしますが、バラエティ番組の場合は、タレントのイメージ評価など、ある程度、制作側の意向に沿った言葉を引き出したいときもあって、初めから結論ありきの演出で進む場合もあります。
街頭インタビューは制作側の忍耐が問われる作業でもあります。駆け出しのころはひどい時で30人に一人ぐらいしか答えてもらえないこともしばしばです。ですから「100人インタビュー」だと、場合によっては3000人に声をかけるという時間と根性の戦いになってしまいます。今は100人のインタビューなら、取材班を複数に分けて、対応しますが、新人アナウンサーやAD(アシスタントディレクター)はこうしたハードな現場を数多く経験して、鍛錬を積むのが一般的です。

 

「客層」を見極める

ティッシュ配りと街頭インタビューは「人を捕まえる」という意味では共通点があります。ティッシュを受け取ってくれそうな客層とインタビューを受けてくれそうな客層はともに「比較的時間がある」という側面があるからです。とりあえず各局とも盛り場やターミナル駅へ出陣しますが、これもどういった人からコメントを引き出したいかで、大いに変わります。例えば都内でのインタビューの場合、若者なら渋谷、サラリーマンなら新橋、優雅なお買い物をしている女性なら銀座といった具合です。近年、とみに増えているのが、巣鴨や浅草といった下町エリアです。巣鴨は「とげぬき地蔵」に象徴される「お年寄りの原宿」ですし、浅草は外国人観光客に人気のスポットです。例えば、ニュースで年金問題のインタビューが必要な場合は、巣鴨は外せません。

 

地方の場合は苦戦も…

大阪や名古屋くらいの規模の都市ならば、所謂、インタビュースポットは複数あるので、ジャンル別にロケ地を振り分けられますが、それ以外の都市だと、必然的に駅前が現場になります。ところが都市の規模が、人口30万程度まで下がると、駅前駐車場が有料のケースが多く、買い物客が郊外型のショッピングセンターへ流れてしまうため、そもそものインタビューの絶対数が足りません。ショッピングセンターの場合、駐車場でのインタビューは事前許可を求める場合も多く、加えて殆どが車に乗り込む直前を狙うため、なかなか「撮れ高」を確保できなかったりします。地方局の場合、夕方のニュースが主戦場のため、街頭インタビューが午後だったりすると、時間との闘いになり、スタッフ一同、焦りだします。経験上、なかなか捕まえられず、冷や汗をかいたことも一度や二度ではありません。そういえば、ある地方都市で、女性が全く捕まらないことがありました。あとから地元局のスタッフに聞いたところ、保守的な土地柄だと、隣近所で観ているテレビ番組が一緒なことが多く、ご近所にインタビューを受けていたことが知れ渡ってしまい、気恥ずかしい思いをすることがあるそうです。これ以外にも、方言が強く、訛っているからという理由で、インタビューに消極的な土地柄もあります。

 

インタビューに応じてくれそうな人とは…

では、ロスなく、インタビューを進めるのはどんな人にマイクを向けたらいいのか。ここでは経験則を基に、分析します。まず、「大声で笑いながら歩いているおばちゃん」のグループ。これはたいてい楽しいことの最中で、精神的にテンションが上がっているので、割に成功しやすいです。同様の理由で、関西弁で話している人も「ノリ」の良さから、インタビューが成功する可能性が高いです。

精神が開放的になっているという点では、キャリーバックを持った「旅行者」もねらい目でしょう。遊びに来ているので、気持ちにも時間にも余裕があります。この他、歩くのが遅い人やベンチに座っている人も「時間に余裕がある」ので、比較的インタビューに応じてもらいやすいと言えます。

天候取材という面では、雪かきをしている人や暑い日に公園の噴水の脇でたたずむ親子も定番ですが、親子はともかく、雪かきは、会社勤めの合間に戻ってきて作業する場合もあるので、応じてもらった場合でも、短時間で切り上げるべきです。パフォーマーの人もステージが終わった時点では、応じてもらいやすいと思いますが、ビジュアルが不向きな場合もあるので、選挙取材などでは、あまりお勧めできません。

 

インタビューの注意点

こうした苦労を重ねて、インタビューに漕ぎつけるわけですが、これもなるべくインタビュアー側はしゃべらず、応じてくれた人の声をできるだけ活かすことが鉄則です。よく経験の浅いアナウンサーやディレクターが、勝手に答えを促して、応じてくれた人が「うん」とか「はい」だけしか答えない場面を散見しますが、これは答えの「引き出し手」としては失格です。できるだけ、相手が答えやすい質問を心掛け、応じた人がスムーズに話しやすい環境づくりに心を配るべきでしょう。もう一つは、編集を考えた対応をすることです。よくあるのは、マイクを相手に向けたまま、質問してしまうこと。騒がしい場所だと、質問が聞き取れないケースがあり、文字おこし等、確認に手間取ります。マイクを向けるタイミングも完全に質問が終わってから相手に向けないと、編集点が入ってしまい、違和感が出ます。
生放送で街頭インタビューをする場合は、即興で捕まえようとすると、万一、キャッチが不調に終わった場合、時間を未曾有に食ってしまう可能性があり、中継のADが予め応じてもらえる人をつなぎとめておくのが常套です。

 

街頭インタビューの今後

近年はテレビ慣れしている人が増え、街頭インタビューに気軽に応じてもらえる半面、編集後の番組を観て、「自分の答えようとした意図とは違う」と不満を露わにするケースも増えています。生放送であれば、リスクは限りなくゼロに近いのですが、収録の場合には、極端にディレクターの主観が入ったり、場合によっては制作側の企図に沿うように編集したりして、トラブルになるケースもあります。こうした不測の事態を防ぐためにも、質問事項は、予めスタッフミーティングですり合わせておかなければいけませんし、もし、現場でどうしても追加質問が必要になった場合はプロデューサーやデスクと電話で相談をして、充分な確認をとる必要があります。綿密なプランを持って、街頭インタビューに臨むことこそ、番組成否の一番のカギと言えるかも知れません。

 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 村松 敬太