視聴者層と横並びでコーナー分析

視聴者層と横並びでコーナー分析
2021年3月8日 ninefield

地上波では主に「朝」「午前」「昼」「午後」「夕方」「夜」と1日6回の生放送枠があります。主要4局と呼ばれる在京キー局の場合、各局とも横並びで放送するのが通常で、発生モノや米大統領選といった、大きなニュースがあると、「枠大」と称して、前後の番組をこじ開けます。最近は各局とも10時台や11時台に30分程度のインターバルをとる以外は、早朝から夜7時ごろまで、ほぼシームレスに報道・情報番組を放送しています。ただし、そこは視聴率で鎬を削る放送局。局間はもちろん、自局内でも番組間での視聴率競争は熾烈を極めます。また、個人視聴率が導入されて以降、各局は従前にも増して、「視聴者層」を意識したコーナーづくり、番組づくりへのシフトが際立つようになりました。今回は視聴者層というキーワードを基に、テレビ各局が如何にして、番組内のコーナーや内容を決め、数字のアップに結びつけようとしているかを探ります。



 

 



視聴率から視聴者層へ

視聴率調査会社のビデオリサーチが、視聴率の調査方法を大幅に変更しました。具体的には全国で機械式調査に切り替えた上で、ビデオ録画の視聴状況をみる「タイムシフト視聴率」やテレビの台数毎に数字を測定する「個人視聴率」へ完全移行しました。これによって、各年齢層の視聴動向が一目瞭然になり、テレビ各局は、多くのスポンサーが求める13歳から49歳の「コア」視聴者層に向けた番組制作に力を注ぎ始めました。(局によっては59歳まで拡げている場合もあり)事実、視聴率は比較的好調なのに、「長寿番組」といえども相次いで終了しています。そこには「視聴率が良くても広告が取れないケースが増えた」という声が出ています。原因は先述した「コア」層です。「コア」層は購買意欲のある層という認識のもとスポンサーからも視聴動向が重要視されています。局としては、広告が取れない、収益の上がらない番組をそのままにしておくことはできません。こうした流れは報道や情報番組といった生放送にも例外なく忍び寄っています。各局ともワイドショーも含め、報道や情報を扱う生番組が半日以上、絶え間なく放送されているので、局によっては、「報道番組や情報番組が多すぎる」といった編成への厳しい注文が相次いでいます。
 

コロナが及ぼした影響

ここに加わったのが、コロナの影響です。外出自粛で、確かに総個人視聴率(PUT)は、一時的に上がりました。しかしこれは、新たな視聴者の獲得が実現したわけでは無いので、また下落に転じました。また、家庭内でのオンライン化が進んだために、テレビ端末そのものへの「接触率」は上がったものの、同時に「ネットフリックス」や「Hulu」といった定額制の動画配信サービスを視聴する人も増えました。即ちテレビ視聴が全体的な増加したとは必ずしも言えない側面があります。何よりも飲食店の時短営業や雇用環境の悪化で、国民の購買力が低下し、収入減に悩まされるスポンサーが続出。各社とも広告宣伝費の見直しに着手せざるを得なくなりました。相次ぐ難題の出現に、民放各局では、営業部門を手始めに「あの手この手」で何とか凌ぎきろうと知恵を絞っています。

 

ワイド番組のネタ決めルーティン

先述のように、視聴率の判定基準やスポンサーの収入減という課題が渦巻く中、各局のワイドショー担当者は、「視聴率」と「視聴者層」の両方の要求を満たすよう、日々、腐心しています。特に番組のチーフプロデューサーや制作班のチーフデスクなどは、他局や他番組との差別化が頭から離れません。曜日ごとに制作班が交代する番組の場合、準備は概ね放送の前々日の「企画会議」から始まります。会議では、ディレクターたちがタイムリーな話題や他局で採り上げていないような話題を探りながら、同時に展開の方法も打ち合わせます。長期の取材が必要な場合は、その前から動く場合もあります。企画会議終了後、コーナーの担当がそれぞれのディレクターに割り振られ、取材や事前準備に取り掛かります。午前中までに放送の番組の場合、OA前日の早朝から出社し、昼・夕方・夜の各局のニュースの並びをチェック。同時に報道局の編集会議にも出席し、本番中に飛び込んできそうなニュースが入るかも確認します。こうして材料を揃えた上で、プロデューサーが総合演出などと協議をしながら、番組で採り上げるネタやコーナーの長さといった「最終指示」を出して、本番へ突入します。
 

ネタ決めと並びの留意点

朝の情報番組の場合、横並びチェックで留意するのは、前日夜9時以降のニュース項目です。このゾーンは各局の看板番組がひしめき合い、視聴者の注目度も高いからです。例えばライバル局が発生モノをトップに、自局が政治モノをトップにした場合には、敢えてライバル局の並びに準じたりします。発生モノは別として、深夜から朝方までは、国内ネタが動かないので、外信待機の側面も大きくなります。また、5分以上の長尺の企画に関しては、敢えて真ん中にCMを入れる場合もあり、Qカット(CMへ入るキッカケ)用の素材を別枠で作ったりします。また、他局がCMに入るタイミングも研究しています。生放送では必ずCMをいれなければならない時間(確定CMや提供)と多少前後してもある一定の時間までに流せばいいCMと2種類あります。この他局のCMタイミングでチャンネルを変え流れてくる視聴者を逃がさないために、自局がCMに入らないよう、いかに留まってくれるコンテンツを放送するかにも腐心しています。スポーツコーナーの場合は、専門性が強いので、一般のディレクター班とは別立ての専従班が担当するケースが多く、原稿や素材チェックが内部で完結することもあって、一般班とはあまり接点がない場合もあります。

 

変わるターゲットと判断基準

このように万難を排してもなお、必ずしも期待通りに視聴率が上がるとは限りません。仮に、視聴率が合格点に達していても、先述のように「個人視聴率」でコア・ターゲットへの訴求が足りなければ、営業やスポンサーの顔は曇ります。こうした場合は、芸能コーナーを増やすなど、番組の構成を大きく変える必要があります。一例を出すと、定額制の動画配信サイトなどでブームになっているアーティストを「地上波」へ引っ張り出し、地上波と配信サイトといった複数のプラットフォームの組み合わせでキャンペーンを仕掛けます。また、スイーツ特集やファッションコーディネート対決など、購買力のある女性が興味を引きそうな企画を多用することも、特定の視聴者層にターゲットを絞った戦略と言えるでしょう。これはスポンサーが絡む「物件モノ」の対応にも使えるので、近年のテレビ制作現場では頻出のテクニックです。
事前の告知も重要です。近年は公式HPだけでなく、SNSを使った番宣も存在感を増しています。主に編成畑が担当しますが、放送本編との連携など、制作現場でも意識せざるを得なくなっています。

 

「視聴者層意識」は今後、強化の一途に

これまで、ワイドショーの制作は、他の番組同様、視聴率が唯一絶対の指標でした。今までは際どい内容も高視聴率であれば多少のことは目をつぶってもらえる雰囲気がありました。しかし、全体の視聴率よりも、コア・ターゲットへの訴求力が問われるようになり、番組制作の現場は、根底からの意識改革を迫られています。今後は硬派な題材よりも芸能ニュースや生活情報で各局が鎬を削る場面が増えるかもしれません。これまで他局がどんな手で来るかという「ウラの読み合い」で培ってきた推理力や洞察力が、マネタイズによりシビアな「コア・ターゲットの奪い合い」にどう活かされるのか。テレビマンたちの対応力が問われています。

 

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 笹木 尚人