テレビ原稿(ニュース原稿)の書き方

テレビ原稿(ニュース原稿)の書き方
2021年4月5日 ninefield

近年は速報性こそ、ネットに譲る部分もありますが、テレビニュースの武器が「映像」であることは論を俟ちません。映像とコメントをコラボレーションさせる演出手法は、長らくメディアの王様に君臨してきた源泉ですし、動画投稿サイトにも受け継がれています。また、同じ放送原稿でもラジオとは書き方が異なる場合もあります。テレビの記者は映像の有無を常に念頭に入れながら、いかにわかりやすく視聴者へ伝えるかに日々、頭を悩ませています。そうして悩んだ結果の積み重ねが、視聴率の実績につながり、やがては番組全体や局への信頼へとつながっていきます。今回は「放送原稿の書き方や取材体制」にスポットを当て、深掘りします。



 


 



ニュース性と映像とのせめぎあい

記者やカメラマンに限った話ではありませんが、テレビに携わる人間は多かれ少なかれ、「どうやったら映像化できるか」「どう映像化したら面白くできるか」を常に考えています。新聞記者が「文章一本」で表現する小説家なら、テレビ記者は「カメラマンや編集マンとの共同作業」で一つの作品を作る映画監督といえるでしょう。当然、新聞記者とは違い映像に関するセンスを求められます。自らが立ち会って、新たに撮影した映像はもちろん、局が所蔵している資料映像、映像で足りなければ、フリップやCGといった素材まで想定した上で、原稿を執筆します。言い換えれば、常にニュース性と映像とのせめぎ合いに苛まれていると言っていいでしょう。
 

新聞・テレビ・ラジオ~それぞれの原稿の書き方

新聞・テレビ・ラジオ各メディアの記事フォームは当然、大きく違います。新入社員の研修メニューに、新聞記事を放送原稿にリライトする作業を課している放送局もあります。新聞記事が放送原稿ではどう表現が変わるのか、交通事故のニュースを基に、具体例を説明しましょう。

例えば、新聞で「28日午後7時35分ごろ、○県△市✕町の国道〇号で、同市✕町の男性(52)が、△市◇町の女性(45)の乗用車にはねられた」という記事があったとしましょう。

これを29日の放送を前提に、テレビ用にリライトすると、「事故があったのは、○県△市✕町の国道〇号で、昨夜7時35分ごろ、近くに住む52歳の男性が、△市◇町に住む45歳の女性が運転する乗用車にはねられました」となります。つまり映像があることを前提にして、場所⇒時制⇒人定の順に書き進めます。ニュース映像の編集は、「ロング」と呼ばれる全景に始まり、やや寄った画の「ミドル」さらには対象物の「アップ」という順でカットをつなぐのが、基本的な流れで、コメントも合わせる必要があります。これに、アナウンサーが顔出し部分で読むリード(見出し)文「昨夜、○県△市の国道で、男性が乗用車にはねられました」が加わって、一本のストレートニュースが完成します。

ラジオの場合は、テレビの原稿を流用する場合もありますが、映像と合わせる必要がないので、「昨夜7時35分ごろ、○県△市✕町の国道〇号で…」と時制から書き始めても問題ありません。ただし、テレビのようにテロップが使えないので、より耳で聴いてわかるよう執筆する心がけが肝要です。

お気づきのように、映像の有無で、コメントを書き出す順番は大きく変わります。放送原稿は活字と違って、読み返しが利かないので、ストレートニュース1本当たりの字数は400字が上限とされています。標準的なアナウンサーの読む速度は1分300字と言われていますので、概ね1分20秒が上限の目安といっていいでしょう。ちなみにキー局がストレートニュースを報じる場合、1本あたりの秒数はリード10秒+本編40秒というパターンが一般的です。秒数を一層コンパクトにまとめることで、視聴者へより伝わりやすくする工夫を凝らしています。

「衝撃映像」や「動物映像」など、時には「映像ありき」のニュースが飛び込んでくることもあります。その場合は「絵解き」の感覚を駆使し、与えられた時間軸の中で、いかに面白く伝えられるかに頭を悩ませます。これはどちらかといえば、記者よりも内勤のニュースディレクターが担当する分野です。技法としては「NG集」や「珍プレー好プレー」のナレーション作成に近いといえるでしょう。
 

同音異義語や熟語は回避する

最近はパソコンなどで他の作業をしながら、「耳だけ」テレビに傾けている視聴者も多く、耳で聴いて理解できるニュースの需要は以前にも増して高まっています。センテンスは不自然にならない程度に短く区切り、テンポよく仕上げることが求められます。

原稿執筆時の注意点としては、「同音異義語」や「熟語」の回避が挙げられます。例えば「荒天」と「好天」は音で聞くと、ともに「こうてん」なので、前後の文脈が無ければ、単体ではどちらの意味か判別できません。この場合は「大荒れの空模様」とか「爽やかな青空」などと、より具体的に言い換える必要があります。

「熟語」も可能な限り、やわらかい表現に置き換えます。例えば「練達の士」は「熟練し、技術に長けた人材」などと言い換えます。言い換えが難しい場合は、かみ砕いた説明をつけるなど工夫も必要でしょう。この他「約」や「短銃」「首相」なども「およそ」「ピストル」「総理大臣」などと言い換えます。つまり耳で聴いて、視聴者がストレスなく理解できるかを常に考えて、原稿を書く必要があります。
 

ニュース取材の流れ

映像を伴う現場取材は「記者」「カメラマン」「ライトマン(兼カメラアシスタント)」の3人一組で行うのが、基本です。ニュースで使う映像撮影の指示は、取材の際、記者がカメラマンに対して出します。ですから、記者とカメラマンのコミュニケーションがしっかり取れていれば、機材トラブルなどの特殊な事情でもない限り、編集段階で、映像が撮影できていないということはあり得ません。

取材後、記者は、撮影された映像や局が所有している資料映像などの使用を念頭に、原稿を執筆します。発生モノで続報取材が重なったりした場合は、キー局だと内勤のニュースディレクターに編集の立ち合いを任せるケースもあります。地方局では、人手不足から、支局や通信部を中心に、記者がカメラマンを兼務するケースがあります。撮影中は当然メモが取れないので、政治家などキーパーソンの挨拶は全編撮影し、編集時に聞き返しながら、原稿を作成することもしばしばです。もっとも、支局や通信部は、大規模災害でもない限り、取材スケジュールに比較的余裕がありますから、機材セッティングや運転の負担を抱える反面、自分のペースで動けることはメリットといえるでしょう。
 

映像になりにくい話題をどう表現するか

記者やニュースディレクターをはじめとするニュース原稿の執筆者は、常に映像の有無を意識しながら、日々、筆を走らせています。「映像至上主義」は専用機材での撮影が必要な場合も多く、新聞が得意とする深層取材が不得手だという指摘もありますが、近年は機材の軽量化かつ単純化で、機動性の面での遜色はなくなりつつあります。新聞という従来からのライバルに加え、ネットニュースの台頭で、テレビニュースの相対的な立ち位置が変わる中、これからの記者には、わかりやすい表現に腐心することはもちろん、技術革新や取材環境の激変に柔軟に対応する能力が改めて求められそうです.
 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 有明 雄介