映像編集者は演出理解も必須

映像編集者は演出理解も必須
2021年6月28日 ninefield

今でこそ、パソコンやスマホにアプリが標準で搭載されていますが、僅か15年ほど前まで、映像編集は一般人にとって、大変敷居の高い作業でした。最近はYouTubeをはじめとした動画投稿サイトの隆盛で、一般人でもどんどん編集作業に参入していますが、プロの映像編集者と比べれば、依然として、ノウハウに大きな差があります。今回は動画投稿サイト全盛の時代に、ディレクター、編集オペレーターといったプロの映像編集者に改めて何が求められるのか。どんな素養が必要かを探っていきます。



 

 



オフライン編集は本編集の「露払い」

「編集」は複数の映像素材を「集めて編み」、つながりや加工によって、視聴者へ訴求することが最大の目的です。具体的にはカメラマンが撮影した映像やCG部でつくったCG素材などを揃え、ディレクターが、編集オペレーターの力を借りながら、うまくつなぎ合わせて、一つの映像作品に仕上げていきます。

編集作業は「本編集」と「オフライン編集」に大別されます。このうち、本編集に入る前にディレクターが行なうのが「オフライン編集」です。これはいわば仮編集で、映像や音声をつないで「起承転結」を組み立てていきます。編集の基本かつ最も重要な作業です。「構成を考える」「膨大な量の映像素材の中からどのカットを使うのかを選ぶ」「テンポやスピードを決め、放送時間内に納める」「音声をつなぎ合わせる」など、必要不可欠な作業メニューが並びます。
また 視聴者にどうすればテーマやメッセージが伝わるか、わかりやすいかを考えながら作業を進めることも、オフライン編集の重要な側面です。編集する人のアイデアやセンス、技術力などによって出来上がる映像は異なります。ですから、「オフライン編集」が映像作品の面白さを左右すると言っても過言ではありません。まさに、映像作品の根幹はオフライン次第ともいえます。

なぜ、オフライン編集が必要になったのかは、ハードの発展と大きく関わっています。実はフィルム時代の編集は直接、切り貼りをするため、オフライン編集という概念はありませんでした。1970年代以降、放送現場にビデオテープが導入され、在京キー局を皮切りにオフライン編集が徐々に始まりました。当時、本編集は、撮影したマザーテープから必要な部分だけを「受けテープ」に転写させる方法で行われていました。しかし、マザーテープを酷使するので、画質が落ちたり、最悪、絡まって、せっかくのカットが使えなかったりするトラブルが頻発しました。このマザーテープの「こすり」を最小限に抑えるために、タイムコードなどの情報が入ったVHSテープを作り、そのテープで仮編集をするようになったのが、オフライン編集のルーツです。オフラインでの編集情報を基に、本編集では、使うカットの「イン・アウト」を登録して、一挙につないでいきます。

本編集は、オフライン編集で仕上がってきた映像をよりきれいに、わかりやすく仕上げていく作業で、ライン編集とも呼ばれます。現在では撮影から送出に至る放送局のデジタル化で、中核のシステムの一つです。本編集の代表的な役割に「色味の調整」があります。例えば、複数のカメラで撮影した映像をつなぎ合わせていくと、色や明るさに違いが出ますが、その違いをなくす色調整は本編集の大事な作業です。

この他、料理をさらにおいしそうに見せたり、人物を切り抜いたりといった映像加工や演出、CGと実写の合成など、演出意図に合わせた加工を行うのも、オンライン編集です。
これに、映像だけでは伝わらない情報やコメントをテロップで入れる作業も加えて、一連の流れが成立します。

 

撮って出しが増える報道現場

一方、報道現場ではノンリニア導入後、「撮(録)って出し」がとみに増えています。「撮って出し」とはざっくりいえば、編集時間がなく、収録した素材をそのまま放送に乗せることです。本番ギリギリあるいは本番が始まってから、素材が入ってくることは報道の現場ではよくあることですが、ノンリニアの場合、パソコンへ取り込むという作業が発生すしますが、報道では現場から伝送される素材を編集室で取り込みながら内容確認と編集を一気に進め、OAに臨む場合もあります。事件・事故をはじめとする「発生モノ」は鮮度が命ですので、いきおい「撮って出し」に頼る比率が高くなります。経験則がモノを言いますが、一瞬にして伝わる映像をつなぐという反射神経のようなセンスも必要になってきているといえます。
 

意外なキーマン?!

映像の編集者は、集まった映像をどうつなげば、視聴者に効果的な訴求が実現するかを最優先に考えます。例えば火事の映像なら、トップカットを燃え盛る炎のアップにするか消防車が集まるロングカットから入るかによって、インパクトが変わってきます。取材者と視聴者をつなげるいわば鎹(かすがい)の役割を担っていると言っていいでしょう。そこで役割がクローズアップされるのが、隠れたキーマン「カメラマン」です。一般人の持ち込みビデオは刹那的な撮影が多く、ストーリーが組めていないため、往々にして編集に苦労しますが、プロカメラマンは必要なカットを経験則で理解できているので、編集もスムーズにつなげます。編集を前提にした撮影ができてこそ、プロカメラマンの第一歩とも言えますし、視聴者に訴求できる作品づくりにつながります。
 

パソコン編集時代に生きる編集者の「心得」

ノンリニアが出始めのころは、パソコンの性能も低く、レンダリングやバッチデジタイズといった作業に時間がかかったりしていましたが、放送現場のファイルベース化で、編集ソフトやアプリも進化を遂げ、今ではかなり短くなりました。一方でパソコンの高スペック化は、一般人の動画投稿サイトへの投稿意欲をかきたてる一因になり、玄人顔負けの作品も珍しくありません。こうした時代だからこそ、特にプロの編集オペレーターは常に編集機材の動向に気を配り、最新のソフトを使いこなすスキルを身につけておかなければいけません。
 

根気、管理、忍耐…

時として、放送現場に集まる素材は膨大になります。もちろん、各ディレクターがカット表を書き留めておくことは、オペレーターに対する最低限の礼儀ですが、例えばドキュメンタリーなら、ディレクターの演出意図を理解した上で、数百時間にも及ぶ素材の中から、シーンを選んで、効果的に組み合わせる必要があり、根気の要る作業が続きます。また、納期を控える関係上、スケジュール管理能力が必要ですが、スケジュールが押した場合、長時間、編集室にこもって作業することもあるので、忍耐力も求められるでしょう。在京キー局の場合、番組の数が多く、編集室の貸し出しスケジュールもタイトなので、時間との闘いの側面も見過ごせません。地上波以外にも衛星放送やネット放送など、プラットフォームが拡大の一途をたどる中、ディレクターそして編集オペレーターの仕事量は増大の一途だと言えます。 

玉石混交の映像投稿が氾濫する時代だからこそ、プロはどんな映像を残せるのか…。百戦錬磨の経験に裏打ちされた「視聴者をあっと言わせるセンス」が、ディレクターそして編集オペレーターには問われているといえそうです。

 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 北原 進也