映像の印象を決めるナレーション

映像の印象を決めるナレーション
2021年7月12日 ninefield

映像作品の出来栄えを考える上で「ナレーション」を重視するディレクターは多いといわれています。聴覚情報は視覚に次いで、記憶に残りやすく、ナレーションの印象によって映像テイストは大きく変わってきます。昔の新人カメラマンは「ナレーションがなくとも、見てわかる映像を撮れ」と教育を受けたものですが、映像制作の多様性が当たり前になる中、ナレーションを無視した作品づくりはありえなくなっています。そして、ナレーターも超一流のプロから素人レベルまで玉石混交で、依頼者側にしてみれば、正直、誰に頼んだらよいのか頭を悩ませることでしょう。今回は映像におけるナレーションの役割をはじめ、男女の声の違いを活かした起用法、さらには依頼の方法まで解説していきます。



 

 



映像を活かすためのナレーション

ドラマ、ワイドニュース、バラエティ…。ナレーターの活躍しないテレビ番組はありません。実況アナウンスの独壇場といっていいスポーツ中継でも、最近はインサートVTRで、ナレーションを入れ込むケースが目立っています。ナレーションの起源はいうまでもなく「芝居」その後、無声映画での活動弁士の活躍などを経て、テレビ時代へと突入します。現代は動画投稿サイトの隆盛で、素人でも手軽にナレーション入りの動画を制作することができるようになりました。反面、ナレーターの力量の差は大きく、せっかくの動画の良さがナレーションで「台無し」になってしまう残念な例も見受けられます。では、ナレーターを起用する上で、どんな点に注意すればよいのでしょうか…。
 

誰に向けて訴求するのか

まず、大切なのは、誰に向けて制作している映像なのかという「ターゲット」の確認です。
バラエティ番組で大御所俳優の重々しい語りが出て来たり、シリアスなドキュメンタリーにノリの軽いトーク風のナレーションが出てきたりしたら、違和感満載です。これは社内向けの動画でも同じで、例えば、株主総会向けでターゲットが投資家の場合と、新卒説明会向けでターゲットが学生の場合とでは、ナレーションのイメージは自ずと違うものになります。
まず、投資家向けの場合だと、動画は、会社の実績や今後の展望を報告する場で放映されます。投資家にとって自分が所有する株式の価値がどうなるのかを確認する場でもあるため、軽快感やさわやかさよりも、信頼感や説得力が必要でしょう。ひと昔前までは男性の専売特許でしたが、最近は女性でも落ち着いたトーンを得意とするナレーターが増えてきました。どちらの声でも問題ありませんが、いずれ低めで落ち着いた印象を与えるトーンが望ましいといえます。

一方、新卒説明会の場合は、学生がターゲットですから、「やわらかなトーン」かつ「さわやかな声質」が望ましく、女性の声を起用した方が、会社への期待感を高めてもらえるでしょう。

次に大切なのは「映像自体のテイスト」と合わせることです。例えば、実写や商品紹介の場合、多くは映像を通して信頼を訴求します。こうした場面では落ち着いた声質の男性のナレーターを起用した方が、信頼感や説得力を与えやすくなります。

アニメーションを使った映像の場合は、ポップなテイストなのか、実写に近いものなのかによっても変わります。ポップなテイストならば、分かりやすく内容を伝えることを重視するため、クリアな印象の女性ナレーションが適していますし、実写に近いものならば、少し落ち着いたトーンのナレーションの方が、視聴者を映像へ引き込みやすくなります。どちらかといえば、若さが目立つ声質よりも、大人の深みが感じられるナレーターの方が適役といえるでしょう。

このように、誰に向けて発信する映像なのか、そしてその映像からどのような印象を与えたいかによって、ナレーションを選定することが重要となります。そのためにはまず、ターゲットと映像のテイストを決め、それに合ったナレーターを探すべきでしょう。

 

「老若男女」の適性を考える

カーナビの案内やコンピューター音声の多くは女性の声が多用されています。これは女性ナレーションの方がすっきりしていて聴きやすい特徴があるからです。「誰もが気にいる男性の声よりも、誰もが気にいる女性の声の方がはるかに見つけやすい」という研究結果もあり、「高い」女性の声の方が活躍の場が広いことを示しています。一方、男性の声は女性に比べて相対的に低く、信頼感や説得力を与えやすくなります。
さらに年齢別で見ても声の高さによって印象は変わります。一般に若い声は爽やかで軽快感があり、老いた声は男女問わず声が低めで落ち着いた印象を与えます。

 

局アナと声優・俳優の違い

地方局では大都市圏のようにナレーターの選択肢が広くない上、経費上からも自局の局アナにナレーションを依頼するケースが多くなります。特に報道系だと、専業ナレーターを調達する時間も経費も余裕が無く、必然的に局アナへの依頼が増えます。局アナは研修期間に、アナウンス教育を受けていますし、業務の一環として、定時ニュースを読んでいるので、ルビはもちろん、アクセントやイントネーションについてもほぼ心配はありません。これは局アナ出身のフリーアナでも一緒です。加えて、地元出身者の採用が多く、特に東北や関西など、方言番組の需要が多いエリアでは「疑似バイリンガル」として重宝します。その反面、声質のバリエーションや表現力という点では、俳優や声優に及びません。一方、俳優や声優を起用した場合、表現力は素晴らしいのですが、前述のようなアクセント、イントネーションについては、ディレクターが立ち会ってのケアが必要になります。当然、ギャラも派生し、知名度のある俳優だと一回数十万という金額も珍しくありません。このため、予算が潤沢に用意されているケースを除けば、地方局の場合、自社のアナウンサー起用が一般的です。
また、近年は宅録環境の充実に伴い、SNSや動画投稿サイトで自身の宣伝をするナレーターも増えてきました。ボイスサンプルを用意している場合も多いので、事前に声質がわかるというメリットもありますが、やはりレベル的には差が大きく、SNSだけで起用を決めるのは少しリスクがあります。よしんば、気にいったナレーターと巡り会えたとしても、制作した映像とマッチしていなければ、本来の意図とは違うものが出来、禍根を残すことになるでしょう。

 

やはり経験にはかなわない

こうしたミスマッチを防ぐには、やはり制作会社へ相談してみることが確実かつ最速の早道です。制作会社は動画のテイストに合わせて、ナレーターを起用するノウハウに長けていますし、ナレーターのマネジメント会社とも、長年培った太いパイプで結ばれている場合が多いです。何よりもクライアントの意図を汲み、トータルな目線を持ちつつ、常にベストな訴求方法を模索しています。素人がSNSで個々のナレーターにアプローチするより、はるかにリスクが少なくて済むでしょう。
ナレーションが番組あるいは動画制作成否のカギを握っていることは論を俟ちません。これから映像制作を検討される方は、ナレーター依頼の際、是非、一度、制作会社に相談だけでもしてみてはいかがでしょうか。

 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 石川 淳