増えるハウススタジオ

増えるハウススタジオ
2022年1月3日 ninefield

近年、「ハウススタジオ」と呼ばれる小規模な貸しスタジオの需要が増えています。昭和の映画全盛時代には、大船撮影所や太秦撮影所など、大規模な撮影スタジオが主流でしたが、近年、ニーズの多様化やコストの削減を目的にハウススタジオが俄然、脚光を浴び始めました。この「ハウススタジオ」、漠としたイメージはあってもどんな物件がハウススタジオに該当するのか具体的に把握している人は、案外、少ないかもしれません。今回は、ハウススタジオについての基本的なポイントをご紹介しつつ、その特性や効果的な活用法などについて、探っていきます。



 

 



ハウススタジオの概念とメリット

 「ハウススタジオ」をざっくり定義づけすると「雑誌や番組制作などの撮影のために使う建物」ということになります。ただし、俗に「白ホリ」などに代表されるホリゾント系のスタジオは対象から除くのが一般的です。一軒家がまるごとスタジオになっていたり、マンションの一室がスタジオになっていたりするのが、ハウススタジオの代表的なスタイルです。家具や雑貨が揃えられている物件が多く、それらを基本料金プランで利用できることがセールスポイントになっている場合も多いので、制作する動画や写真の世界観が定まっていれば、大きな効果を発揮します。

 ハウススタジオは、実に様々なコンセプトで建てられていて、改めてセットを組まずに、いろんな世界観を表現できるのが魅力です。そのコンセプトは多岐にわたり、日本の一般的な住宅や中世のヨーロッパ風、レトロな雰囲気からリゾートなイメージまで、様々な撮影に対応することが可能です。撮影に必要な家具や調度品などを改めて揃える必要がないので、時間とお金、両面でのコスト削減をもたらします。
 
 また、自宅のような家具や設備なので、リラックスして撮影に臨めることも魅力の一つです。基本的には全面貸し切りなので、ほかの人の視線を気にすることなく、撮影に専念できます。人物やペットの撮影などにはうってつけでしょう。洋風・和風を問わず、センスの良い建物の内観・外観は、多くの制作者の人気を集め、ドラマやCMをはじめ、アーティストのプロモーションビデオや写真撮影など、引っ張りだこです。

 ハウススタジオでは、屋外スペースで撮影を行うこともあり、ロケーションも重要な要素です。海や湖に隣接しているケースはもちろん、山の麓に位置していたり、街並みが一望できたりと、多種多様なバリエーションがあります。窓から見える風景で、動画や写真の印象が変わるケースもあり、ロケーションはハウススタジオを選ぶ上で、非常に大切です。

 

物件の傾向と客層の変化

撮影には多くの機材やスタッフが必要になります。このため、ハウススタジオはキャパシティに余裕があり、近隣住民からの苦情やトラブルも防ぎやすい「戸建て住宅」がメインです。もちろん、都心のマンションやビルでも可能ですが、その場合は、部屋を防音にしたり、部屋ごとに「オフィス風」「リビング風」といったなどモチーフを作ったりしている場合もあります。また、郊外に行くと、広大な庭付きやプール付き豪邸風のハウススタジオだったり、工場や学校などのスタジオもあったりして、撮影内容に応じて、特徴あるハウススタジオを使い分けるのが一般的です。
 
 従来、ハウススタジオを利用する客層といえば、テレビ局をはじめ、制作プロダクションやレコード会社、さらには広告代理店やフリーカメラマンといった人たちが「お得意様」でした。しかし、近年は、YouTuberが撮影に使ったり、個人が結婚の記念として、ウェディング撮影のために使用したりするケースなどが出始めています。さらに、最近はインスタなどに掲載するコスプレイヤーをはじめ、家族写真や記念写真を撮影しようとする一般の人の利用も増えてきています。

 

注意点と料金の傾向

このように、利点が多く、一般の人たちの利用も伸びているハウススタジオですが、使う際には注意も必要です。まず、気をつけなければならないのは「規約」です。ハウススタジオは、ホリゾントのスタジオに比べて、規約上、制限されている撮影方法が多い傾向にあります。全フロア禁煙、ガムテープ使用の禁止といった、細かな条件が付く場合もありますし、建物そのものが重要文化財に登録されているものもあります。この場合、規約を破り、貴重な建物に傷をつけてしまうことは、撮影を止めるばかりでなく、最悪、文化財保護法違反に問われかねないので、細心の注意を払いましょう。

 照明機材ついても、事前の確認が必要です。ストロボ照明のスタンドやカラーライトといった撮影機材が備え付けられているところもありますが、撮影に特化したホリゾントのスタジオとは違い、ハウススタジオは、照明機材を制限しているところも少なくありません。なぜなら、ハウススタジオは、一般的な住宅と同程度の電気容量であることが多く、電気をたくさん消費する特殊な照明機材などは、安全確保のために使えないケースがあるからです。これを無視して、撮影を続行すると、ブレーカーが落ちたり、機材が故障したり、最悪、火災が起こってしまう危険性すらあります。大惨事にならないためにも、機材の確認や電力の使用条件は念入りにチェックしましょう。また、ハウススタジオは基本的に、自然光をメインとした柔らかい雰囲気の撮影を想定しています。このため、夕方になると極端に暗くなる場所があり、スタジオを押さえる場合は、撮影の時間帯も考慮に入れる必要があります。

 料金については、基本的に時間制ですが、ホリゾントのスタジオに比べると、やや高額な傾向にあります。これは、スタジオ側で、内装や家具、小物類に力を入れている場合、基本費用が高めになるからです。ただ、最近は安めの料金設定のスタジオが増えていますし、中には「6時間利用」「1日利用」など、長時間利用に限って、ディスカウント料金が設定されている場合もありますので、ホームページなどで基本料金を確認した方がよいでしょう。

 

ロケハンの重要性とプロへの依頼

これまで紹介してきたように、ハウススタジオは種類が多岐にわたる上、利用上の規約も厳しい面があり、現地でのロケハンは不可欠といえます。ところが、一般の人にはなかなかこの重要性が理解できていません。確かに、パンフレットやネットでの検索を通じて、大まかな雰囲気は把握できます。しかし、いざ、現地へ行ってみると、先述のように、時間帯に問題があったり、規約に縛られたり、はたまた機材その他の不備があったりで、方針変更を余儀なくされるケースが想定されます。確かに、映像撮影の場が広がるのは、選択肢が増えますから、制作サイドとしてはうれしいことですが、求めている映像が撮影できるのかを見極める労力を惜しむと、構想とはかけ離れた作品になってしまいます。特に、商用利用の場合は致命傷になりかねないので、ロケハンは不可欠です。
 
 ここで制作会社への依頼という選択肢が浮上します。プロならば、あらゆるハウススタジオでの撮影経験がありますし、機材についてもオールインワンで揃えることができます。もちろん、ロケハンもぬかりないので、撮影の安心感は論を俟ちません。YouTuberやインスタグラマーはもちろん、パーソナルなアニバーサリー作品を作る場合でもぜひ、プロへの依頼を検討してみてはいかがでしょうか?

 

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 松野 一人