地方のプロモーション動画が増えている

地方のプロモーション動画が増えている
2021年5月10日 ninefield

ネットサーフィンしていると、必ずといっていいほど、地方自治体のPR動画が上がってきます。観光名所や特産品の紹介というオーソドックスな内容から、移住促進など、自治体そのもののプロモーションまでさまざまです。近年、自治体間の競争は拍車がかかっています。換言すれば、あまりの乱立ぶりに、差別化が一層、求められているジャンルともいえます。今回は自治体がPR動画制作に力を注ぐ背景や、より多くの再生数を稼ぎ出すのに必要な戦略まで、自治体動画をとりまく現状と今後を探ります。



 

 



動画投稿サイト出現以前の自治体ビデオ

YouTubeなどの動画投稿サイトが出現する以前から、地方自治体など公的な団体はプロモーションの可能性を探っていました。少子高齢化や税収の減少などで、自治体そのものの存続が危うくなり、急激な市町村合併だけでは問題の根本的な解決には結び付きませんでした。その結果、企業誘致や移住政策への取り組みが加速していきます。それに真っ先に呼応したのが地方のテレビ局でした。

人口流出の問題は地方局にとっても自治体と共通の悩みでした。スポンサー確保が難しくなるからです。こうした背景に支えられ、風景や観光名所を撮影し、VHSやDVDといったパッケージメディアにまとめて、自治体に納品するビジネスが、平成の中ごろから急激に増え始めました。当時の地方局では局内にCM制作部という部署がある局も多く、広告会社を介さないいわゆる「直営業」案件は、自社制作していましたから、自治体のプロモーションビデオ制作にはうってつけの環境だったと言えます。ほどなくして、制作会社も進出し始めましたが、いずれ、高価な機材や撮影スキルが必要になるため、金額も巨費におよび、自治体担当者にとってみれば、気軽に起案は出来ませんでした。

 

動画投稿サイトの出現で大きく変わった制作環境

この環境が劇的に変わり始めたのが2015年頃からです。背景はYouTubeをはじめとした動画投稿サイトの隆盛です。自治体発のPR動画は、爆発的に増え、いまやその数は年間700本にものぼるといわれています。先述の通り、従来はVHSやDVDなどパッケージしメディアを納品するのが一般的でしたが、動画投稿サイトの出現で、高価な機材や特別なスキルが無くてもアップロードが可能になりました。視聴者は全世界におよび、国内に限られていた従来と比べれば、飛躍的な到達度を実現しました。制作した動画は当然、TwitterやLINE、Facebook(Instagramを含む)といったSNSへも流用ができますから、視聴者の共感を呼ぶことができれば、等比級数的な視聴者増へとつながります。
政治の後押しも見逃せません。特に自治体に直接寄付できる「ふるさと納税」は、目に見えて税収が伸びるので、多くの自治体関係者のモチベーションにつながっています。「ふるさと納税制度」で注目を集める特産品の売り上げ増加を狙い、動画を使った自治体の広報活動は年々、積極さを増しています。

 

動画投稿サイトでPR動画を投稿するメリット

自治体や観光協会がPR動画を制作する最大のねらいは、人口減少が加速し、元気を失っている地元に「人とお金を呼び込む」ことです。これまでアプローチできていなかった視聴者に動画を通じて地元の魅力を届けられれば、興味を持った人たちが観光に訪れたり、移住者としてやってきたりする以外にも、ふるさと納税で自治体を応援してくれるなどの効果が見込めます。最近の観光プロモーション動画では、発注者が企業以外でもマーケティングやブランディングを意識し、「顧客」を集める戦略が顕著です。

また、動画に広告をつければ、再生回数が増えるほど広告収入が得られます。動画は、文章や画像よりも多くの情報を伝えられる手段です。人物の表情や臨場感、食品のシズル感まで、より具体的に伝えることが可能ですし、効果音やエフェクトを駆使して、高級感を演出したり、逆に身近な親近感を抱くようなタッチに仕上げたりと、表現の自由度は文字や画像の比ではありません。加速度的な人口減少に悩む地方自治体にとって、こうした直感的なメディアを使ったプロモーション活動は今後、ますます増えていくことが予想されます。

 

「埋もれない動画」と「炎上の危険性」のはざまで…

ただし、いくらお金をかけて良い動画を作っても、インターネット上にある無数のコンテンツの間に埋もれてしまう危険性があります。多くの人たちに見てもらわなければ何も始まりません。ある調査では、自治体が制作したPR動画の半数以上は再生回数が1,000回にも満たないそうです。

どんな広告にもいえますが、ターゲットを明確にして、視聴者の印象に残るコンテンツにしなければなりません。都会にはない、他の地域にはない独自の魅力を把握し、どのようにPR活動をしていくのか、適切な戦略が問われています。

PR動画制作に際し、筆頭に挙げられるのは「目的の明確化」です。例えば特産品の販売なら、主婦層や家計をやりくりしている人がターゲットになりますし、移住促進なら転職や地方移住を意識している会社員やリタイア世代がメインになります。企業誘致なら企業の幹部クラスをターゲットに据える必要があります。まずは「誰に何をどのように訴える」のかを明確化しましょう。

目的を明確化したら、次は目標の設定です。例えば観光客や定住者の誘致なら、再生回数や平均視聴時間、動画のCVR(ウェブサイトから得られる最終効果)貢献数など、具体的な指標でデータを取る必要があります。さらに、実際の観光客数の推移や特産品の販売実績、ふるさと納税の増収目標まで設定して、効果を見極め、効果が低ければ、コンテンツの内容をリニューアルします。
動画の冒頭でインパクトを与え、その後も「これから何が出てくるのか?」というワクワク感やストーリー性を持たせないと、視聴者は他のサイトへと移ってしまいます。こうした事態を招かないためにも、内容や演出に高いクオリティが求められています。換言すれば、視聴者を飽きさせずに、最後まで楽しく見てもらうような工夫が必要になります。

その一方で、あまり過激な演出をすると、炎上の危険性も増します。他の自治体と差別化を図るために「攻め過ぎた」結果、炎上してしまうと、自治体のイメージが悪くなってしまいます。意外にも、ファンの心を掴んでいる自治体PR動画の多くは、淡々と地域の自然や文化を紹介している映像です。話題性ばかりを狙うのではなく、真摯に地域の魅力を伝える動画づくりを心がける必要があるでしょう。

PR動画を作るためにはそれなりのコストと時間がかかります。住民から徴収した税金を投入してPR動画を作成するわけですから、費用対効果についても十分検討した上で、制作に着手することは論を俟ちません。炎上して批判を浴びないことはもちろん、かけたコストに対し、最大限の効果を発揮する作品を作り上げる必要があります。そのためには、動画を制作した実績やノウハウを持っている映像制作会社に依頼することが最も早道といえそうです。

 

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 笹木 尚人