イベントで収益を伸ばすテレビ局

イベントで収益を伸ばすテレビ局
2022年3月14日 ninefield

テレビ各局が開催する「イベント」は最早、局の「放送外収入」の中核と化しています。規模もジャンルも様々で、単なる名義使用もあれば、番組から派生したもの、さらには番組と連動したコンサートやスポーツ大会なども運営しています。中には季節ごとに開催されるイベントが、局のイメージづけにつながっているケースもあります。今回はテレビ局とイベントをテーマに、その歴史や収益化のしくみ、さらには今後、求められる心構えなどについて、探っていきます。



 

 



それは80年代から始まった

イベントを中心にしたテレビ局の「放送外収入」の歴史は意外に古く、70年代には、すでに有名歌手のコンサートなどへの名義使用が始まっていました。名義使用とは興行会社からの依頼で、コンサートの主催に名を連ねる代わりに、名義使用料を還元してもらう仕組みで、今でも地方局やラジオ局などでは、よく目にする手法です。よく「○○放送主催 ▲▲コンサート!」などと、自社宣伝の枠を使った告知を目にしますが、まさしくこれに当たります。主催でなくても、例えば美術展など展覧会、スポーツ、舞台、など「後援」のイベントにも名義使用は幅広く広がっていて、いわば、「副収入」源として、確固たるポジションを築いています。
 
 80年代に入ると、バブル景気に沸き、各局ともタイムやスポットといった広告収入が右肩上がりの時代に突入しました。そこで生まれたのが、体育館や野球場、陸上競技場などを使って、テーマパークのようなイベントを開催するアイデアです。この頃から、ニュースやワイドショーなどの生番組で、自社イベントを紹介し、誘客につなげようという「仕掛け」が一般化してきました。こうした仕掛けは「物件モノ」とか「是非ネタ」と言われ、キー局、地方局を問わず、枚挙に暇がありません。バラエティや情報番組などでイベントの告知をしたり、開催場所で撮影や中継をしたりと、番組作りの経験をフルに発揮し、イベント周知の機会を拡げています。

 

テレビの強みを活かす

 このように放送外収入の主な柱として、イベント事業への期待値は年々、「うなぎのぼり」です。ある局では、制作や編成よりも、事業が花形だったりするなど、各局が力を注ぐ副業に成長しています。地方局の中には、局の名前をつけて「○○祭り」を毎年開催し、放送エリアに対して、局のイメージをアピールしているところもあります。
 
 こうしたシンプルな開催方法もあれば、営業その他の連携で、すこし手の込んだ「応用編
」も存在します。たとえば「冠スポンサー」のついたライブイベントなどは、実際の主催がテレビ局の場合でも、ポスターやイベントの告知に必ず企業ロゴの文字を入れますし、スポンサー企業優待の先行販売などもあります。こうした「冠スポンサー」を付けることは、イベント自体のチケットの売り上げはもちろんですが、規模が大きければ、数千万円単位で、スポンサーから広告料が入るケースもあります。この他にも、テレビ局の野外イベントに「展示ブース」を出すことを条件に、前年度より多くの宣伝費を出稿するスポンサーもいます。

 こうして、テレビ局のイベントが認知され、人気に拍車がかかってくると、スポンサーへの有効な営業ツールに成長していきます。もちろん、テレビ局の強みである宣伝能力は如何なく発揮。一件のイベントにつき15秒や30秒の告知CMを制作し放送するなど、映像の力でイベントを宣伝できるのはテレビ局ならではと言えるでしょう。さらに、イベントによっては30分や75分の特番を制作し、イベント全貌の紹介や名場面集を織り交ぜて、次年度以降のさらなるブームアップにつなげようという試みもあります。

 

あの手この手で収入アップ

こうしてテレビ局は「あの手この手」でイベントの収益化を探っています。例をあげれば、大型の野外イベントに出店する屋台から「テナント料」を徴収したり、音楽イベントだけでなく、美術展などでも、入場者数に応じて、チケット収入の何%かがテレビ局へ入ったりする場合もあります。もちろん、書籍や美術作品を題材にしたキーホルダー、さらにはTシャツや小物など、ありとあらゆるグッズの販売も重要な収益源です。

 インターネット配信が普及した最近では、イベントをオンラインで有料ライブ配信する試みも珍しくなくなりました。中には人気アイドルグループのミニコンサートなど、ファン心理を巧みについたコンテンツを揃え、有料課金で収益化につなげるケースもあります。最近の大規模イベントは食をテーマにしたものなど、老若男女に受けがいいコンテンツが多く、テレビ局の強みでもあるイベントに映像の力を加えた相乗効果を期待する関係者は多いです。

 

ターゲットはどこか

この他にも、地方局では、高校野球やサッカーなど、放送局が主催する各競技の県大会予選をハイライトにまとめ、DVD化して販売したり、地元大学の医学部と連携して、「健康講座」を番組化し、時間の都合上、OAされなかった部分を未公開映像として、You Tubeへアップしたりするなど、従来以上に番組との連動を強化する動きが目立っています。いわば「ワンソース・マルチユース」の具現化といえ、コンテンツ次第ではイベント映像の2次利用も収入源の一つに成長することの可能性を示しています。成功する企画に共通しているのは、地域住民のニーズをいち早く汲み取っていることです。例えば一つのイベントを複数地域で巡回開催する場合、ある地域では全く関心を集めなくても、別の地域では大人気になるというケースも珍しくありません。「どこの地域にどんな企画をぶつけたら、ブレイクするか」というマーケティング目線で考えることは、企画立案者として、労多い分、やりがいがあるともいえるでしょう。

 これまでご紹介してきたように、イベントは時代とともにターゲットが大きく変わり、栄枯盛衰も激しい分野です。ですから、どの局もイベントごとの特徴を把握し、ターゲット層に向けてどのように宣伝展開すべきか、さらにはどのようなコンセプトが適しているかなどを確実に見極める必要があります。これを怠ると、巨費を投じたにも関わらず、事業失敗となり「放送外収入」を望むことは出来ません。反面、イベント自体の集客はもちろん、質の高い展覧会や講演会などは、関係者だけでなく、一般の人たちにも高質な文化を提供し、高く評価されています。その意味では単に「楽しい」「面白い」だけでなく、エンターテインメントを扱いながらも、ビジネスはもちろん、地域文化の担い手としての目線も求められているといえるでしょう。

 黎明期、テレビ局の中では比較的、地味な存在だった事業分野も、バブル期以降は花形部署として、人気セクションの一角を占めるようになったのは先述の通りです。一般市民にあらゆる「価値」を提供するという意味では「制作」の番組作りに匹敵する重要性を「事業イベント」は包含していると思います。これから先、テレビ業界におけるイベント分野がどう変容していくのか。関係者の知恵と汗の結晶が、一般市民のワクワクに拍車をかける「燃料」の役割を果たし続けることを期待します。

 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 林 要