ドラマや映画で活躍スクリプター

ドラマや映画で活躍スクリプター
2022年5月30日 ninefield

テレビドラマや映画を見ていると、エンドロールに「スクリプター」という職種が出てきます。映画やドラマの撮影現場で、変更箇所の記録を取る仕事で、以前は文字通り「記録」と表記されていました。語源は「台本」を意味するscriptからできた和製英語で、厳密には「スクリプト・スーパーバイザー(script supervisor)」が正しいのですが、第二次世界大戦の英語禁止で「記録」と日本語に訳され、90年代の「日本映画・テレビスクリプター協会」の発足に伴って「スクリプター」という名称が定着しました。監督や俳優のアドリブをはじめ、どのシーンがOKだったかなど、撮影現場での変更を逐一記録していきますが、これがないと、撮影以後の作業や編集作業をする場合、前後のカットがつながらず、大変苦労することになります。今回は「監督の女房役」「秘書係」との異名もある「スクリプター」の役割についてスポットをあて、仕事の流れや求められる人材像などを探ります。



 

 



スクリプターが必要な理由

スクリプターがなぜ、必要とされるかは撮影のシステムと深く関わっています。映画・テレビドラマを問わず、撮影を進める場合、各出演者のスケジュールの調整がつかないケースが出てきます。その場合、台本順ではなく、バラバラにシーンやカットを撮影します。例えば、出演者同士が向かい合って対話するシーンの場合、一人を正面から撮るカットと相手役を撮るカットとでは、照明の当て方やカメラアングルなどが変わってきます。しかし、その度にセッティングをいちいちやり直したのでは、時間と労力がいくらあっても足りません。そこで、最近の作品では、出演者ごとに「話す部分だけ」を別撮りし、編集でつなぐことで「対話しているように見せる」方法が主流になっています。

 加えて、一つのシーンにおいても、「表情のアップ」と「全身」など、編集で使うためのさまざまな「カット」を撮影しています。そのため、全てのカットごとに「何を」「どのように」撮影したのかを記録しておかないと、前後のカットで出演者の動きがつながりません。 また、前のカットであったはずの小道具がなかったりしても、整合性がとれなくなってしまいます。そこで、先行する撮影の際、演者側では衣装やヘアメイク、持ち道具など。スタッフ側では美術や照明、撮影方法、それに音や時間といった部分について、台本には記載されていないことを含めた様々な状況を記録しておく必要が出てきます。こうした諸々の状態を記録し、編集で連続したシーンになるよう管理する職種が「スクリプター」です。

スクリプターの仕事の流れ

では、スクリプターはどんな流れで仕事を進めているのでしょうか?スクリプターの仕事は撮影が始まる前からスタートします。まず、台本を読んで「時間」の長さを出していきます。衣裳合わせでは、「どんな衣裳を着るか」「時計やメガネは?」といった具合に、役の設定によって、決めごとを記録していきます。その後に続く「美術打ち合わせ」では、撮影の方法を話し合ったり、リハーサルにも立ち会ったりします。

 撮影が始まると、監督のコンテを把握し、スタッフに伝えます。さらにそれらの情報を「スクリプト用紙」に1カットにつき一枚ずつ、「セリフ」や「動き」、「秒数」などを細かく記録していきます。そして記録した情報を基に、編集や音付け作業などの指示を編集マンに伝えます。こうして、出来あがった作品が長くなり過ぎないように時間の長さを管理し、長い場合は監督に短くするよう提案することもあります。もし、時間の長さの管理ができないと、追加撮影や再撮影、編集などに多大な労力を割かれることになりますから、スクリプターの管理はまさに生命線といえます。

 撮影は順撮りではなく、バラバラに撮るので、芝居のつながりを確認するのも分掌範囲です。「髪は耳にかけていたか」「目線はどうか」「グラスを左右どちらの手でどう持ち、水がどのくらい入っていたか」など、「動き」や「セリフ」のテンションが自然につながるように確認していきます。
 
 この時、セリフが台本通りかを確認するのはもちろん、「音」についても理解していないと編集がつながらなくなります。したがって、あらゆる事を予測した上で、全てが当たり前につながるよう、計算しながら進めていきます。出来あがってからも、副音声用や海外字幕用に撮影後の正しいセリフをはじめ、効果音や音楽など、これまでの撮影・演出内容を全て反映させた「完成台本」をつくる場合もあります。

 このように「準備期間」「撮影期間」「仕上げ期間」の全てに携わり『作品の全貌』を把握することがスクリプターの仕事といえます。

求められる人材像

 スクリプターは、昔から圧倒的に女性が多い職種です。もちろん、男性でもできないわけではありませんが、細やかな作業や事務的な記録がメインの業務で、いわゆる監督のアシスタント的要素が強いため、長い間に、女性に向くというイメージが出来上がってきたと言われています。男性が多い撮影現場で、現場のコーディネーター的役割も担っていて、言い換えれば、監督がやりたいことを実現できるように、他のスタッフとの橋渡しを行なうともいえます。

 雇用形態としては、フリーランスが殆どです。特に必要な資格はありませんが、映画関係の専門学校や映像系学部のある大学から、助手として修行していくのが一般的です。また、映画会社や映画のジャンルによっては、セカンド助監督がスクリプターを兼任していて、仕事の実績如何で、チーフ助監督や監督への昇格条件の一つになっています。さらに実力と知恵をつけたスクリプターは、プロデューサーやシナリオライターへ転身するケースも増えてきています。
 
 スクリプターは、とにかく経験がモノをいう仕事なので、場数を踏むことが最重要といえます。撮影の流れについての詳しい知識が必要なのは論を俟ちませんが、他にも、監督の意図をはじめ、俳優のアドリブやヘアメイク・衣装など、全てを記録する業務上、それらを正確に記録する注意力と集中力が求められます。加えて、忙しい現場の中で、瞬時に細かく記録できる観察眼と冷静さも必要と言えるでしょう。当然、集中力は切らせませんから、個人的な事情があっても、仕事を最優先する気持ちの強さも持ち合わせなければいけません。

 各スタッフの橋渡し役を務めることも考えると、監督の意図や決定したことを正確に伝えたり、意見の不一致があった場合に間に入ったりするなどのコミュニケーション能力も望まれます。それを支えるのは、常に自分をコントロールし、客観的でいることです。スクリプターは準備から仕上げまで、監督と常に行動を共にし、監督の日々のテンションも把握・理解した上で現場の全てに対処しますから、先述の通り「監督の女房役」「秘書」という表現は「言い得て妙」です。普段、殆ど話題には上りませんが、縁の下の力持ちとして、現場になくてはならない「スクリプター」に魅力を感じる人も多いのではないでしょうか…。こうして魅力を感じた人材が「一人また一人」と業界の門を叩くことが、邦画や国内テレビドラマ界の層の厚さにつながっていくのだと思います。

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 有明 雄介