エレベーター内も動画広告

エレベーター内も動画広告
2022年7月4日 ninefield

 動画広告は爆発的に広がっています。電車やタクシーの中、駅の地下道の柱など、今では至るところに動画広告があります。メインは「デジタルサイネージ」屋外や店頭をはじめ、公共空間さらには交通機関など、ディスプレイやモニターに「デジタルサイネージ」が進出しています。しかし、あらゆるところに動画広告を仕掛けた結果、今では広告設置のスペース探しが難しくなりつつあります。

 そこで注目を集めているのが「エレベーター」の中を広告スペースとして利用するアイデアです。エレベーターの中は狭く、乗車時間が短いため、広告効果が期待しにくい場所のように思われますが、実はエレベーターの中こそ、他のロケーションと遜色なく、広告効果が期待できます。今回は新たな動画広告の掲載スペースとして、注目を集め始めている「エレベーター」にスポットを当て、その効果や制作の際の留意点などについて、探っていきます。



 

 



エレベーター以前のプラットフォーム

 動画広告というと、以前は渋谷のスクランブル交差点の街頭ビジョンのように、大型の物が主流でした。街の象徴でもあった大型ビジョンですが、渋谷のスクランブル交差点だけでも5基と増加しています。また、広告を流すモニターが多様化したことに加え、動画制作自体のハードルも下がったことで、動画広告は爆発的な拡がりを見せています。

 動画は「ながら」情報として頭の中に入ってくるため、一度に大勢の人への情報配信は不可能ですが、利用者には、ほぼ確実に見てもらえるという利点があります。加えて、狭い場所に広告を設置すると、広告が見られやすくなる傾向があります。こうした背景から、エレベーターの中を広告スペースとして利用しようというアイデアが生まれてきました。

広告スペースとしてのエレベーターの特徴

 狭いスペースに、多くの利用者が密集して乗るのが、エレベーターの特徴です。例えば、エレベーターの中にたくさんの利用者が乗っていると、目のやり場に困って、目線を上の方に向けます。こういう場合、例えば電車なら、スマホいじりを始めたりしますが、エレベーターだと、すぐに目的の階に着いてしまいますし、電波も圏外になりますから、カバンやポケットから、わざわざスマートフォンを出して見ようという人は、まずいません。ともすれば手持ちぶさたになりがちですが、ここに秒単位ながらも、隙間時間が生まれ、動画広告の大きな市場性につながっています。
 
 エレベーター内に動画広告を流せば、手持ちぶさたの状態を解消できる上、多くの人が広告を見る可能性が高まります。事実、デジタルメディアの登場以前は、エレベーターの中やロビーに、チラシやポスターを貼るという広告手法が普及していました。現在でも、公共施設のエレベーターに有料の広告スペースを設けて、歳入確保をめざす自治体は、少なくありません。さらに、ショッピングモールのエレベーターなども、店舗やイベントの動画広告にうってつけでしょう。こうした場所に、デジタルサイネージを導入すれば、広告の視認性が高まり、ユーザーの興味と関心を短時間で引きつけられます。

エレベーター動画広告の効能

 動画広告の第一のメリットは、表示内容が刻一刻と変化するため、多くの情報量を盛り込めることです。視聴する側にしても、ポスターのような静的な広告と比べると、内容を楽しみながら視聴できます。デジタルサイネージですから、配信システムを使えば、コンテンツの表示をすぐに切り替えられますし、スマホやモバイルPCで複数のサイネージを一括管理することもできます。いわずもがな、紙媒体のような印刷や貼り替えは必要ありません。

 他の広告に比べて、視聴率が高いことも強みでしょう。先述のように、エレベーターの待ち時間や利用中は、手持ち無沙汰になって広告を見る傾向が高く、データによっては、利用者の9割がエレベーターのメディア広告を視聴するという数字も出ています。最初は無関心でも、何度も見たり聞いたりする内に、興味や好感を抱くようになる「ザイアンス効果」が期待できます。

 デジタルメディアですから、特定のフロアや時間帯を指定して、最適な場所とタイミングで広告を発信することも強みですし、緊急時には、避難誘導に切り替えることもできますから、公共性の高い情報基盤としても機能します。最近ではデジタルサイネージに顔認証技術を導入して、入退出者の属性に合った広告を表示したり、テレビチャンネルの放送機能で最新のニュースや天気予報を常時配信したりできる機能も現れています。単体設置では、最低、数十万円もかかる防犯カメラへの流用も可能です。

 こうして、エレベーターという共用スペースにデジタルサイネージを設置し、利用者に有益な広告や公共性の高い情報を配信すれば、エレベーターに乗っている時間の顧客体験を向上させるばかりか、ビルの快適性や安全性も高まります。さらに、グローバルな視点でみれば、ESGと呼ばれる環境や社会、ガバナンスに関する配慮の意味でも、不動産物件の価値向上につながるでしょう。

エレベーター内での動画広告の注意点

ではエレベーター内で動画広告を展開するには、どんな点に注意したらよいのでしょうか。まず肝心なのは「利用者層に合わせた内容の広告を配信する」ことです。エレベーター広告を出稿する場合には、エレベーターの利用者層を分析し、利用者層が興味を持ちやすい内容の広告を配信すると、売り上げ向上の効果が期待できます。

 不特定多数の人々が利用するエレベーターですが、設置されているビルやマンションから、それぞれのエレベーターの利用者層をある程度、推察できます。例を挙げると、高級住宅街に建つマンションのエレベーターには、百貨店やマッサージサロンの広告など、富裕層向けを中心に配信すると有効です。一方、オフィスビルのエレベーターなら、入居している企業を対象にした商品やサービスを紹介する「BtoB」(企業間取引)の広告配信が効果的です。日頃から「BtoB」の広告をエレベーター内で配信すれば、オフィス内で働く人たちの中から、広告の商品に興味を持つ人が出始め、商品の売上につながるでしょう。市街地に建っているビルはそれぞれ利用目的が異なりますから、利用者層に応じた内容の広告を配信すれば、効果をより一層高めることもできるでしょう。

 もう一つのポイントは、「短時間で視聴できる動画を制作する」ことです。エレベーターに乗っている時間は、概ね1分以内であることを考えると、動画の長さは15秒前後、長くても30秒以内にまとめることが求められます。「各階停止型」のエレベーターなら、5秒前後で完結できるように動画を制作する必要があるでしょう。これが、長めの動画なら、動画を見終わらないうちに、エレベーターを降りてしまうこともあり得ます。利用者の立場も考え、エレベーター広告は短めにまとめることが肝要です。

 エレベーター内の広告動画はマーケティングから、ターゲットを絞り込むなど、リサーチを十分に行った上で、情報配信しなければいけません。ただ、素人が30秒や1分で、インパクトのある広告動画をつくるのは、機材やアイデアの面でハードルが高いです。ぜひ、ここはプロへの相談や依頼を選択肢に加えてみては如何でしょうか。きっと質の高い動画広告に巡り合えると思います。

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 松野 一人