撮影ロケの味方・フィルムコミッション

撮影ロケの味方・フィルムコミッション
2022年8月8日 ninefield

 映画やテレビドラマを観ていると、エンドロールによく「○○フィルムコミッション」という表記が出てきます。フィルムコミッションとは、映像を撮影するロケがスムーズに行えるよう、制作会社とロケ地の間に入る非営利団体のことで、日本では2000年以降、急速に発展しました。最近はロケーションされた映画やドラマを通じて、地域の知名度や愛着度の向上につなげ、観光客の増加など、直接・間接を問わず、経済効果に結び付けようという動きも活発化してきています。今回は地域活性化策の一つとしても有力視されている「フィルムコミッション」にスポットを当て、背景やメリットなどを、探っていきます。



 

 



フィルムコミッション誕生のあらまし

フィルムコミッションは1969年にアメリカのコロラド州で産声を上げました。その6年後には早くも国際組織化し、多くの国々で様々なフィルムコミッションが誕生しています。日本では2000年に発足した「フィルムコミッション設立研究会」が嚆矢で、2009年にジャパン・フィルムコミッションと名を変え、現在に至っています。今では全国で350以上のフィルムコミッションが撮影ロケに協力しています。映像コンテンツの誘致に各自治体が続々と名乗りを挙げるようになってきた背景には、フィルムコミッションの影響と映画やドラマなどの映像作品を通じて、地域活性化につなげていきたいと考える自治体との思惑が一致した結果といえるでしょう。

フィルムコミッションのメリット

通常、ロケは、撮影専門のスタジオではない場所で撮影します。このため、撮影ロケを実施するまでには、ロケハンや申請手続きといった撮影に関する手続きをはじめ、食事の手配など多くの調整が必要になります。こうした難題解決に助太刀するのが、フィルムコミッションの大きな役割で、制作以外の手間をできるだけ減らすよう協力を惜しみません。こうして撮影がスムーズに進めば、制作サイドにとっては大いに助かります。

 ロケを受け入れる側でも先述の通り、地域活性化や観光振興に結び付くことをメリットとして期待しています。地方や過疎化が進む自治体にとって、誘致した映画やテレビドラマがブレイクすれば、地元が話題になり、観光地化が期待できます。こうした目論見も手伝って、現在、日本のフィルムコミッションの多くは地方自治体が絡んでいて、役所の広報課や観光振興課といった部署が担っているケースが多くなっています。

撮影におけるフィルムコミッションの役割

  さて、フィルムコミッションを行なうに際し、ジャパン・フィルムコミッションでは3つの要件を定めています。はじめは「非営利の公的団体であること」です。フィルムコミッションは、ロケ地を誘致するだけでなく、撮影ロケの手助けも行ないます。例えば、たくさんのエキストラが必要な場合は、住民からエキストラを募りますし、お弁当の手配や宿泊施設の手配も担います。この時、スタッフ・演者の宿泊料やお弁当代などの実費は、もちろん支払いが発生しますが、フィルムコミッション自体は手数料をとりません。したがって、制作会社とフィルムコミッションの立場は常に対等を保てます。

 次に挙げられるのは「ワンストップサービスの提供」です。ワンストップサービスとは、手続きごとに窓口を分担するのではなく、全ての手続きを一つの窓口で対応するシステムで、フィルムコミッションに限らず、一般の行政サービスでも広く採り入れられています。窓口を一本化することで、制作サイドの手続きに関わる負担は大幅に軽減し、安心して撮影に臨めます。またフィルムコミッションを通せば、ロケ現地へ足を運ぶ回数を減らすことができますし、フィルムコミッションが地元企業を紹介して、撮影のハードルが格段に下がった例もあります。

 最後は「作品の内容を問わない」ことです。撮影ロケが必要な作品は、内容がさまざまで、
ロケ地選定が「願ったり叶ったり」の場合もあれば、さほどメリットが見いだせないケースもあります。とはいえ、憲法に定められた「表現の自由」の尊重は大前提。反社会的だったり、公序良俗に反したりしているなど、撮影がロケ地のイメージダウンにつながると判断される場合を除いて、「作品内容をみて、フィルムコミッションが受け入れ可否を決めてはいけない」という要件があります。

フィルムコミッションの課題

 ここまでご紹介してきたように、フィルムコミッションは制作サイド、自治体双方に多くのメリットがあります。しかし課題が全く無いわけではありません。

 まず、挙げられるのが、深刻な人手不足です。確かに日本でフィルムコミッションが支援する作品の件数は、年々増えていますが、その担当者は、殆どが他の部署との兼任です。したがって、担当者の平均人数は平均で0.8人にとどまり、ロケ支援以外の活動がままならないケースも目立ち始めています。また、英語力がある人材も足りないので、海外からの撮影依頼に対応できないことも人材育成上の大きな課題です。

 撮影環境の整備も今後の課題として挙げられます。日本では許認可手続きが著しく煩雑で、撮影に利用する施設によって「警察」「公安委員会」「消防」と窓口がバラバラです。そもそも、国として映像撮影を許可する窓口の一元化ができていません。こうした連携不備が重なり、一度許可が下りていたロケ地でも、「チャブ台返し」に遭って、その後、許可が取り消される場合があります。こうした事情を重く見て、政府では2017年から「ロケ撮影の環境改善に関する官民連絡会議」を立ち上げ、環境改善に向けた議論を続けています。

 法的な課題もあります。現在の日本の法制度では、映像制作者に該当するビザがないため、興行ビザで対応していますが、滞在先の事前申請だったり、国内での興業収入が皆無にも関わらず、所得税が課税されたりするなど、問題が指摘されています。さらに、日本の映画に対する補助金は、基本的に単年度のみですが、金額的にみると、大規模作品には安すぎ、小規模作品には申請のハードルが高すぎるという不都合も孕んでいて、解決が求められています。

フィルムコミッションとうまく付き合うには…

 こうした課題を踏まえて、フィルムコミッションとうまく付き合っていくには、どんな点に気をつけたらよいのでしょうか。まずは各フィルムコミッションの特色を理解して付き合うことです。主体が行政かNPOかでも変わりますし、「都会型」「田園型」など、ロケーションによっても特徴は異なります。フィルムコミッションを利用する場合は、この特徴を理解して接することが肝要です。

 また最近はフィルムコミッションへの理解が進むにつれて、単なる撮影支援の枠を超え、映画祭など、新たな企画の支援へ発展させていこうという動きも顕在化しています。当然、自治体からの助成金は不可欠ですから、役所の予算要求の仕組みについて、理解を深めることも要諦の一つといえるでしょう。もちろんコンプライアンスやリスクマネージメントへの配慮が、トラブルとは無縁のロケ実現につながることは論を俟ちません。こうした理解と努力が進んでこそ、地域へのこだわりと作品への誇りが相乗効果を生み出し、多くの人の心を打つことにつながるのではないでしょうか。

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 村松 敬太