幅広い層から注目 農業動画活用

幅広い層から注目 農業動画活用
2022年8月22日 ninefield

  最近はあらゆる業界で動画の活用が進んでいますが、農業の世界も例外ではありません。農業関連の動画をYouTubeで配信している人は「農チューバ―」と呼ばれ、同業者はもちろん、農業に興味を持っている人など、幅広い層が注目しています。そして、高齢化に伴う就農人口の減少などで、失われつつある日本のプロ農家の“技術をつなぐ”インターネット上のプラットフォームとしても期待されています。今回は農業の世界で広がりを見せつつある「農業動画」について、導入のメリットや将来像を探っていきます。



 

 



暗黙や経験則が主だった日本の農業技術

日本の農業人口は減少の一途を辿っています。農林水産省がまとめた「農業労働力に関する統計」によりますと、普段、仕事として農業に従事している「基幹的農業従事者」は2021年現在わずか130万人で、その内、およそ7割が65歳以上です。平均年齢も67歳に達していて、高齢化が顕著です。

 農事組合法人など、一部にはいわゆる「担い手団体」もありますが、日本の農業は従来から家族経営が多く、技術や知識は主に暗黙知や経験則によって、親から子へと伝承されてきました。しかし高齢化に伴うプロ農家の引退は、後継者不足を引き起こし、ひいては、長い時間をかけて培われてきた高度な栽培技術が失われてしまうという深刻な問題も孕んでいます。さらには、生産性の維持だけでなく、高品質な農作物を安定的に供給するにも障害を及ぼすリスクがあります。食糧自給率の低下に歯止めをかけるためにも、就農者の増加策は喫緊の課題といえるでしょう。

 そこで注目を集めているのが、農業へ動画を導入する取り組みです。農業で働く人たちを映したプロモーション動画を入口にして、農業の魅力を動画で伝えられれば、失われつつあるプロ農家の経験や技術を次世代へとつなぐことができますし、農作物の品質向上や生産者の収益向上にもつながるでしょう。つまり、農業動画は日本農業の救世主になり得るかも知れない期待を背負っています。

農業に動画を導入するメリット

では、農業に動画を導入した場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。例えば、農業初心者のために、野菜作りの農作業マニュアルを動画で作成すれば、仕事の内容をイメージしやすくなります。これまでは、興味を抱いた人が農業に挑戦しようとしても、野菜の作り方が分からなければあきらめてしまっていました。よしんば、農業経験があったとしても、経験値が少なければ、どの時期に何を育てようか悩んでしまうこともあったと思います。その点、動画なら、身近に野菜の作り方を教えてもらえる講師役がいなくても、栽培すべき野菜を時期別に紹介するコンテンツを作れば、農作業の知識が得られます。

 農業動画への参入は動画の作り手にとっても、新たなビジネスチャンスの開拓につながります。例えば、家庭菜園をしている人に対しても、時期によって、どのような手入れをすればいいのか分かりやすく発信すれば、固定ファンが付くことが期待できます。動画の収益化を考えている人にとっては大いに参考になるでしょう。

農業動画制作のポイント

 では、具体的にどんな点に注意して、農業動画を制作したらよいのでしょうか。皆さんが真っ先に思い浮かべるのは「ノウハウ」を教えることを目的とした動画だと思います。例えば、全国各地のプロ農家の技術を1分程度の動画にまとめたシリーズでは、難易度が高く品質や収量への影響も大きい剪定や摘花・摘果などをわかりやすく解説していて、好評を博しています。

 植物の発育状況を発信する動画もじわじわと人気が上昇しています。例えば、その年の天候などで、植物の生育状況にばらつきが出た場合、現状をつぶさに発信すれば、収穫時期や店頭へ並ぶ時期、価格などの予想がつき、他の農家との情報共有につながります。加えて、他の農業ではどんな状況かを知ることができれば、ネットワークやコミュニティが生まれる可能性も出てくるでしょう。

 農機具の紹介も有望なジャンルです。日常生活ではもちろん、家庭菜園でも使う人が限られるトラクターやコンバインは、操作方法に不案内な人が多いからです。こうした「農機具初心者」のために、実際の操作シーンを撮影して、説明動画化すれば、使う人のマニュアルになりますし、操作に縁のない人でも、興味次第で楽しめる場合も期待できます。

 作物の栽培だけではありません。農園で育てている野菜や果物を使った「レシピ紹介動画」もおすすめです。農家だからこそ知っている美味しい食べ方は、消費者にとって新しい発見につながります。手順や作り方、レシピの分かりやすい映像を用いることで、料理に対する心理的なハードルが下がり、誰でも取り組みやすくなることうけあいでしょう。

「後継者不足」を救う有力な選択肢

先述のように、日本の就農人口は減少の一途をたどっています。その要因の一つが他の産業に比べて、所得が低いからとされています。この「負」のイメージを解消するには「儲かる農業」を報じた動画が効果的です。「どうやったら儲かるか」といった先立つ部分の解説はもちろんですが、例えば、農業に魅力を感じ、就農がする人が増えてきたことを伝える動画も、これから農業に取り組もうという人にとって、とても前向きな印象を与える要素の一つになるでしょう。また、農業に目を向けた会社が、組織的に農作業に取り組み、効率的に仕事を進める様子や活気が生まれている実情を伝えれば、農業への新規参入を目論む他の会社への誘発につながるかも知れません。いずれにせよ、農業の魅力や農家の楽しさを動画化すれば、若い世代に興味を持ってもらえる可能性はグッと高まります。もちろん、その発展形として、農協や農業大学校、農業関連企業といった農業教育の場で、担い手や職員育成の教材として活用することも大いに期待できるでしょう。

制作会社のノウハウを活かそう

  こうした動画を制作する場合、最初は自力で取り組もうとするケースはきっと少なくないと思います。しかし、いざ撮影したものの、他人に客観的かつ効率的に農業の魅力を訴求するには、不足な点が多々、出てくることが予想されます。それは、栽培技術はプロでも映像表現についての知識やノウハウが圧倒的に不足しているからです。こうしたテクニックは一朝一夕に身につくものではありません。そこでここはプロである制作会社の力を借りてみては如何でしょうか。制作会社ならば、どういう動画を作りたいかをきちんとリサーチした上で、依頼主の意向を汲み取ったわかりやすい動画制作が期待できます。農機具の操作をメインにしたり、農業を通じた地域活性化を訴求したりとあらゆるジャンルに対応できるでしょう。農業を前向きに捉えた動画が増えることで、農業に魅力を感じ、新規就農者の増加につながれば、後継者不足ひいては、いま、問題になっている食糧安全保障の問題解決にも一役買うかも知れません。活力を失いつつある農業に映像で活性化の息吹を吹き込めるか。農業動画の制作は、疲弊久しい日本農業の未来へ切り込む「橋頭堡」として、大いなる可能性を秘めているといえそうです。

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 笹木 尚人