3DCGバーチャルセットが主流へ

3DCGバーチャルセットが主流へ
2021年4月19日 ninefield

3DCGのバーチャルセットがここ数年で大きく進化してきています。2DCGとは違って、カメラの動きに連動してバーチャルセットの空間を自由に動くことができるようになってきました。3DCGのバーチャルセットの特徴として、狭いスタジオであってもバーチャル(仮想空間)の為、奥行きや広さが変えられ、大きなスタジオに見せることができます。また、ビデオウォールやパネルの出現もフロアの労力を必要としませんし、実際のスタジオセットでは考えられない演出も可能になりました。今回は3DCGを中心にしたバーチャル撮影システムをとりまく現状について、探っていきます。



 


 



合成映像~クロマ・キーから2DCGへ

よく天気予報などで、風景をバックにお天気キャスターが話す場面を見た視聴者は多いと思います。これは「クロマ・キー合成」と呼ばれる映像の合成テクニックで、スタジオにグリーンバックやブルーバックの布や板を貼って、撮影を行う方法です。クロマ・キーの歴史はフィルムの時代からで、少しずつ技術を重ね、進歩してきました。
現在は2DCGとの合成がメインで、特に天気予報などでは、お天気カメラとの合成で使用されています。美術セットを設営する必要がないので、美術費用は抑えられますが、カメラとは連動していないので、カメラが動いても背景は動きません。このため、実際には合成画面のモニターを見ながらのカメラワークが必要ですし、出演者は自分の動きを逐一確認しなければいけません。この「クロマ・キー」合成に代わる映像制作技術として、近年注目を集めているのが、3DCGを瞬時に作成し、実際に撮影している映像とリアルタイムで組み合わせることが可能な「バーチャル撮影技術」です。

 

3DCG全盛の映画やテレビ番組

近年の映画でも、グリーンバックを使ったCG合成は最早、当たり前です。作品賞を含むアカデミー賞4部門受賞の快挙を成し遂げた韓国映画『パラサイト 半地下の家族』でも、邸宅の外観は半分がCGでしたし、昨年末にNetflixで公開された『今際の国のアリス』でも、CG合成で、東京・渋谷のスクランブル交差点を再現しました。また、普段見ている日本のテレビ番組でもバーチャルセットで撮影されているものもあります。ビデオウォールなどのCGオブジェクトが運用されていたり、実物では搬入できないものがバーチャルで表現されていたりします。このように、CG合成は映画やテレビ制作の上では、もはや必要不可欠な技術になっています。さらには、「CG合成」にとどまらず、「CGを撮る」時代がすぐ目の前にやってきています。

 

CGを撮るとは…

「CGを撮る」とは一言でいえば、「画面にCGを表示させて撮影する」制作技法です。
具体的には、3DCGで作った背景を超巨大なディスプレイに映し出し、ディスプレイの前に実際の人物や物を配置して撮影します。ただし、それだけではカメラを動かしても、背景は動きませんから、ディスプレイであることがすぐに「バレて」しまいます。
こうした問題を克服しようと、最近は、カメラの画角やレンズに合わせて、リアルタイムに背景が描き換わる編集ソフトが開発されています。これは、カメラの位置情報やレンズの焦点距離と、撮影範囲のCG描写をシンクロさせる機能を有していて、まるでCGの中で撮影しているような効果を表現することができます。すでに『スターウォーズ』のスピンオフ作品である『マンダロリアン』など、この機能を使って撮影された作品もあり、大きな話題を集めています。従来のグリーンバックを使った撮影後のCG合成では、手作業による修正が必要となりますが、この手法はまさに状況を逆手にとった発想といえるでしょう。

 

3DCGも「撮って作る」という発想

ある会社では、社員への社長メッセージをバーチャル撮影システムで撮影しました。メッセージの背景は、もちろん3DCGでの制作ですが、イチから手作業で作ったわけではありません。
制作のプロセスは、建物をカメラで撮影し、同時に、高性能の「スキャナー」でドットによるいわゆる「点群データ」を作り上げ、現地の空間を3Dスキャンします。こうして作成した画像データと点群データを組み合わせて、実用に耐えうる3DCGに仕上げます。従来に比べて、より低コストで、かつスピーディーに背景を制作できるのはもちろんですが、使い方によっては、ロケ地の下見及び海外渡航、さらには大規模なスタジオセッティングが不要になるので、最小限のスタッフで距離を保ちながら、撮影を行うことが可能です。
もちろん、多少の微調整は必要ですが、撮影した物体をミニチュア化やCG化している感覚なので、格段に馴染みやすいといえます。このほか、撮影期間や労力の大幅な節減も現場にとっては朗報です。例えば、従来のクロマ・キー合成の場合、透過表現や映り込みは撮影後に合成処理を行う必要があります。「グラスに注がれた炭酸飲料を撮影するようなカットの合成は、クロマ・キーだと 1ヵ月程度、制作期間が必要ですが、「バーチャル撮影技術」を使えば、撮影時に映りこみを再現できるため、制作時間の大幅な短縮につながります。

 

CGと現実の区別がつきづらい世界

複雑な反射のリアルな再現など、人物や小道具に対し、背景が光を介して直接影響を与えられるのも、この技術の大きな利点の一つです。
スクリーンと地面を連動しての撮影も問題ありませんし、地面は物理的なセット、背景はバーチャルという組み合わせも選択可能です。さらに、実写映像にVFX素材を重ね合せる際、埃や炎、煙などが人物を取り囲むような映像づくりが可能です。こうした技術は、実在する店舗やスタジオセットを、CG背景を使って再現したり、CGでつくった背景データに商品の3Dデータを合成するといったCM撮影が可能になったりします。表現の幅は飛躍的に広がるといえるでしょう。

 

撮影現場で多用も…/strong>

「おうち時間」が増える中、インターネット上の生配信ライブは、すっかり市民権を獲得し、いまや多くのアーティストも無視できない存在に成長していますが、ここでも「バーチャル撮影システム」は、活躍の場を拡げています。バーチャルと連動させた自在かつダイナミックなカメラワークは、最先端のVFX技術が得意とするいわば「お家芸」ですし、バーチャルセットの空間を縦横無尽に動く「3DCGバーチャル撮影」を活用したハイエンドな3D背景は作品の演出上、必要不可欠になっています。こうしたライブのファンは、今後、飛躍的に増えていくことが予想されます。先述の通り、いわゆるロケハンや海外ロケが難しくなり、洋の東西を問わず、コロナ時代の撮影環境は制約が極めてきつくなっています。加えて大人数での撮影も困難な状況が続いています。こうした中で、「バーチャル撮影システム」は、まさにコロナ禍に苦しむテレビや映画の制作現場にとって、「救世主」と言えます。使い方次第では、劇的な形で、少人数・低コストでの撮影が可能になるため、コロナが収まったとしても、撮影現場で重宝がられることは間違いないでしょう。そして、これからは、ディレクターや映画監督もこうしたデジタル技術を前提に作品プランを練ることが求められると想定されます。架空の世界だけでなく、現実を舞台にした作品でも、今後の撮影のスタンダードになるかもしれません。

 

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 笹木 尚人