テレビマンとYouTuber~ライバル?それとも…?~

テレビマンとYouTuber~ライバル?それとも…?~
2020年8月10日 ninefield

コロナ禍によるテレビ番組のリモート化と、呼応するかのように、自粛生活で芸能人がYouTubeへ続々と進出し始めています。事実、百花繚乱のYouTuberたちに触発されたのか、来春の大学入試の志望者動向でも、「映像編集」や「撮影」を扱う学部・学科の志願者の伸びが著しいという分析もあります。YouTubeといえば、一般視聴者が次々に貴重な映像を投稿したり、広告収入で年収数億円を稼ぎ出すYouTuberも出現したりして、影響力が年々、大きくなっています。他にも動画投稿サイトはニコニコ動画など、複数あって、一時はYouTubeの相対的な地位も下がりましたが、前述の自粛モードで芸能人が相次いで参画し、再びシェアを拡大しつつあります。テレビ各局も近年はニュースやドラマのスピンオフを積極的に配信するようになりました。一見すると、映像や音声を使って、情報を発信するという点では共通していますが、制作手法は異なる部分もあります。今回はテレビマンとYouTuberの「共通点」と「相違点」そして求められる人材像について、それぞれを経験した立場から、考えます。



 

 



YouTubeとラジオは「個」テレビは「チーム」のメディア

YouTubeを制作するうえで最大の特徴は、何といっても、企画から制作、配信に至るまで、ほぼすべての過程をワンマンで乗り切れることです。経験上、ラジオと制作過程がとても似ています。もちろん、ラジオでも、大都市圏の局などでは、人材が潤沢ですし、生放送で、物理上、トークとミキシングの両立が不可能なケースであれば、出演者のほかに、「ディレクターを兼ねた」ミキサーを用意しますが、コミュニティFMを中心に、かなりの番組がパーソナリティ・オンリーの「一人二役」で作られています。もっとも、テレビ局でも、地方局の報道支局の場合、独りで「ネタ探し」から、撮影を含めた取材、支局へ帰ってからの原稿執筆、そして編集をこなす場合がありますが、トータルでみれば、YouTubeは、「映像を扱う」とはいえ、よりパーソナル「個」に訴えるメディアという意味で、ラジオに近いと言えます。

反対にテレビは、先述の「一人支局」のようなケースを除けば、チームワークが生命線を握るメディアです。あるテレビ・ジャーナリストは「テレビは1×0=0のメディア」だと言い切っています。言い換えれば、誰かがゼロなら、それまでの過程がどんなにすばらしくても、すべて水泡に帰します。特に、在京キー局は企画や取材こそ、ディレクターが担当しますが、撮影などの収録をはじめ、CG・字幕を含めた映像編集やナレーション、整音、さらにはパネルやフリップといった美術に至るまで、担当部署が細分化され、完璧な分業社会です。これはバラエティやドラマについても同様ですし、ワイドショーをはじめとする帯番組の場合、担当する制作会社を「日替わり」にして、視聴率を競わせるので、膨大な人件費が必要です。当然、番組一本あたりの制作費は、最低でも数百万円に膨れ上がります。

 

テレビ業界にはコミュニケーション能力がMust!

このように、多くのスタッフが関わるテレビは、出演者同士のコミュニケーションも大きな要素です。一人で何時間もトークを続ける番組はありませんし、ほぼ、すべての番組で複数の出演者が存在します。バラエティでいう「ひな壇」などは代表例ですね。テレビで出演者が一人なのは、「20時55分」や「13時25分」といった、番組と番組の間のタイミングで流れるストレートニュース位なものでしょう。そのストレートニュースですら、最近はワイド番組に組み入れられるのが常です。つまり、テレビは共演者なしでは成立不可能なメディアとも言えます。従って、求められる人材も「周囲と円滑にコミュニケーションが取れる」人の方が向く傾向にあります。映像業界というと「個性派の一匹狼」的なイメージを持たれがちですが、「円滑なコミュニケーション能力」は、制作部門だけでなく、チームでスポンサーや広告代理店にアタックする「営業」や、カメラ・照明・音声・送信が渾然一体となって放送につなげていく「技術」部門など、ほぼすべての部署に通底します。小規模な地方局の中には兼務につぐ兼務で、一人二役はおろか、三役も四役も担当するケースがありますが、手が回らなくなり、ミスが起こりやすい環境と背中合わせです。

多くの人間が関わる最大のメリットは、「チェック機能」が働くことでしょう。報道なら記者の原稿やカメラマンの映像素材を、デスクや編集マンがチェックし、さらに「スピーカー役」を担うアナウンサーを経て実際の放送に載せますので、それだけで何重にも関門を通過します。制作番組なら、番組考査部での考査が待っていますし、CMや通販番組の内容は、業務部と呼ばれる部署が、放送基準に照らし合わせて、問題がないかを確かめます。何よりもひとたび、ミスをすれば、電波料や制作費を出してくれているスポンサーや、間に入ってくれている広告代理店へ迷惑をかけることになり、事と次第によっては、営業成績の不振に直結します。換言すれば、多くの人間を介することで、おのずと緊張感を持った環境になっているといえます。

 

「気軽さ」と「自由さ」が導いたYouTubeの隆盛

これに対し、YouTubeは、企業などを除けば、一人での運営が可能です。先述のように、撮影・編集・ナレーション・配信と一人ですべてを担当する大変さはありますが、誰でも参入でき、配信時間や配信場所を問わない自由さは、代えがたい魅力でしょう。他人とのコミュニケーションは不要ですから、自分が興味のあることに、とことん突っ込んだコンテンツが作れます。テレビがフォローできないようなニッチなテーマやジャンルを取り上げ、人気を集めているYouTuberは数多いますし、放送の独壇場だった「スポンサー」を獲得する投稿者も現れ、テレビ業界の脅威になっています。これまでテレビにCMを出していた一般企業が、新製品発表会などで、YouTubeを使い、直接、消費者に商品を訴求することも珍しくなくなりました。

ただし、個人の場合、内容は「自分任せ」ですから、クレームの処理もありますし、アンチコメントに心が折れることもあるでしょう。もちろん、公序良俗に反する内容がご法度なことは論を俟ちませんが、そうしたリスクを冒してまでも、自身の表現欲求を満たせるところに、こんにちのYouTuber人口の爆発的増加の背景があります。

 

YouTubeの活用は令和時代のテレビマンの必要十分条件

あくまで、可能ならばですが、YouTubeの配信を考えている人は、一度、映像業界を体験してみては、如何でしょう?基本的な撮影や編集のテクニックはもちろん、制作現場に携わることは、おのずと「番組がヒットする仕組み」や「内容の善悪」の基準を学べるので、将来、個人的に配信を考えている人にはうってつけだと思います。逆にテレビ業界側の視点でいえば、どんどん拡大するYouTubeの要素を採り入れることで、演出上の幅の広さを持たせることが可能です。YouTubeはテレビのライバルに成長しましたが、同時に、映像業界を一緒に盛り上げていく「戦友」でもあると思います。互いを別物と捉えるのではなく、それぞれの長所を生かして、視聴者の興味や関心に応える「ハイブリッド」な番組を制作していくことが、これからのヒントかも知れませんね。

 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 北原 進也