近年急増のSNS取材

近年急増のSNS取材
2020年12月14日 ninefield

「緊迫した声や混乱を極める様子をそのまま収めた、事故直後の現場」「ドライブレコーダーが捉えた、あおり運転や、急な飛び出しの瞬間」「誰かに自慢したり、見てほしくなったりするような、可愛い動物や珍しい気象現象の動画」などなど。
近年、ツイッターやFacebookなどを使った「SNS取材」が存在感を増しています。コロナ禍以降、対面取材を避けるケースが増え、この傾向は更に顕著になりました。確かに記者やカメラマンが現地へ行けなかったり、行けたとしても、映像の鮮度を問われたりする場合は、現地の緊迫感や視聴者撮影の映像を確保する入口として、大きな威力を発揮しますが、反面「被害者やその関係者の心情を無視したと受け止められかねない文面」や「同じ局で複数の番組が別々に取材すること」がしばしば問題視されています。今回は近年急増している「SNS取材」を取り巻く現状と取材陣の心構えについて、考えます。



 

 



SNS取材の過熱の背景にある「視聴率競争」

テレビ放送がスタートした当時は、「反戦平和を基軸にした自由報道を担保すべき」という意識が、根底にありました。ですから、テレビ局の報道部門は、利潤を度外視した「局の良心」として、スタートした経緯がありますし、「放送法」では、テレビ番組の編成に関し、一定時間以上の報道番組の確保が定められています

その一方で、テレビ局の中には、平和な時代が続くにつれ、機材購入や人件費に資金を費やす報道部門を批判する声が出始め、高度成長期以降、報道部門自らが「映像と速報性」を武器に、番組で高視聴率をたたき出すことを求められてきた側面があります。視聴者への訴求を考えれば、当然、センセーショナルな映像や表現が求められ、スクープ合戦や演出の過激化は「戦線拡大」の一途をたどってきました。

論を俟たない話ですが、報道取材の基本はあくまで自局の記者やカメラマンが事件・事故・災害などの発生時に、現場へ向かい、そこで可能な限りの多角的な取材を展開することです。また、第一報をできるだけ早く確実に確保するために、警察や自治体など、関係機関の記者クラブに人員を貼り付けています。当然、関係当局への確認など、基本的な取材活動はキー局、ローカル局問わず全てのニュース報道で行われています。

しかし、前述のような事情で、報道番組にも「視聴率確保」という命題がのしかかる中、「より早く、しかも他社にない映像やコメントを」という風潮は年々、強まってきました。報道機関がいくら人員を増やしても、森羅万象すべてを網羅することには限界があります。
このため、各局はHP内に「視聴者投稿サイト」を設けたりして、間口の拡大を図っていて、その延長線上にSNSでの「情報提供呼びかけ」があると言えます。
 

便利な反面、扱い方には要注意

報道機関がSNSにアプローチする場合、映像の入手はもちろん、実際にアップロードしている人たちに発生状況の聞き取りなどをすることがあります。これは、自社取材の映像、情報を補完するためでもありますが、先述のように、視聴率の呪縛に苛まれている立場だと、他局に遅れを取るまいと、ついついセンセーショナルなコメント欲しさに、焦燥感に駆られがちです。確かに、事件の起きている現場ではSNSで状況を説明できる一般人はそれほど居ないでしょうし、欲しいコメントが取れない場合、相手の心情を無視した加熱取材(=メディア・スクラム)に陥ったケースもあります。

さらに「同じ局で複数の番組が別々に取材すること」も問題点として指摘されています。活字メディアも含めれば、場合によっては、一人の情報提供者に数十のメディアが押しかけることもあり、親切で情報提供したはずが、逆に精神的に追い込まれてしまうケースもあります。このため、最近の取材現場では「テレビ各社一社に付き、取材班一班」といった人数制限をする場合もあります。一方、SNS上では、各社からの映像提供依頼に対し、関係のないユーザーが勝手に「嫌です」とか「自分で取材しに行け」と横槍を入れるなど、しばしば問題視する声が上がります。

ご案内の通り、SNSは歴史が浅く、新しい方法だけに、問題も山積みです。警察発表の前に被害者の情報がネットに流出したケースでは、SNSで取材する際、公開メッセージで公表されていない被害者の氏名を出してしまっていたことが原因ではないかと指摘されています。ネットでは、一つの情報から交友関係などの関連情報が重なることで、名前から個人情報を特定されるリスクがあります。こうした事情から、SNSを使った取材方法を快く思っていない人が一定数いることは間違いないでしょう。

とはいえ、こうした事情は、SNS取材を全面的に否定する材料にはなりません。テレビの速報性という役割を考えれば当然ですし、以前と違って、情報の拡散が速いSNS上においては、尚更でしょう。また、本来ならば、対面で取材することが第一ですが、物理上の距離などで、直接、取材先への往訪が困難だった場合、電話取材やメール取材といった方法が以前からあることを考えれば、現地へ行くことが、必ずしも唯一の取材手段とは言えません。

誰でも見ることができるSNSの性質がオーディエンスを引きつけやすくしています。加熱しているのは取材側だけではありません。よく、SNS取材が原因のトラブルで、取材方法の怠慢さを指摘する声が上がりますが、主流はあくまで、記者やカメラマンが現場へ赴いて、自らの目線で記事化・映像化することだといえます。そこには「裏取り」つまり情報の正確性に万全を期す努力が含まれていることも忘れてはならないと思います。
 

情報提供者に対する「気遣い」がモラルや礼儀につながる

誰もが写真や動画を手軽に撮影し、発信できる時代だからこそ、一般市民のリアルな声や、世に知られるべき情報を届けるのが、放送局や番組制作会社の役割といえます。SNS上の情報や、画像・動画などを調べ、報道番組での使用交渉や取材を担当するのは当然ですが、何よりも大切なのは、SNSや電話の向こう側の人への、当たり前の気遣いです。従前にも増して、記者やカメラマンの取材態度に対し、衆人環視が強くなっている中で、情報を寄せてくれた一般視聴者への対応は、現代のテレビ局において、間違いなく重要タスクの一つと言えるでしょう。これはモラルと言うより、むしろ応じていただいた方に対する「礼儀」のように思います。SNS、実際の現場を問わず、この「礼」の部分が欠けてしまえば、取材は失敗に終わりますし、ましてや投稿のリピートなど、全く期待できなくなるでしょう。

事故や火事に遭遇した方には、「お怪我はないですか」の一言が当たり前ですし、問題行為を告発する人には、憤りや悲しみに寄り添うことも必要でしょう。動画の投稿者が思わぬ反響に驚いていれば、まずは撮影時の感動に共感した上で、気持ちに寄り添ううち、話が予期した以上に膨らむかもしれません。もちろん、拒絶されてしまうこともあるでしょうが、自分が拾い上げた1つの投稿が電波に乗り、日本中の人の心を動かすことができたとき、メディアに関わる者の冥利に尽きるのではないでしょうか。
 

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 笹木 尚人