テレビはちょこっと季節先取り

テレビはちょこっと季節先取り
2020年12月21日 ninefield

世界的に有名な4大コレクションに象徴されるように、ファッション業界は大幅に季節を先行し、流行を発信しています。身近なファッション雑誌でも2~3か月先のスチール撮影が当たり前なことは、特に女性の皆さんはよくご存じなのではないでしょうか。
テレビは基本的に「今」を映し出す媒体ですが、「ちょっと先取り」が視聴者の興味を引き、視聴率に反映されることがあります。春秋の改編期や年末年始特番の情報、今後放送されるドラマの配役など、期首・期末の時期に少しでもテレビを観てもらうため、少し早めに情報公開されます。この他にも、早咲きの静岡の河津桜や残暑厳しい本州を尻目に紅葉進む北海道大雪山系など、旅行番組や生放送の小旅行コーナーなどは、少し早めに放送し、季節の映像の先取りに心を砕いたりします。今回は視聴者の関心を高めるために、「先取り」を切り口にテレビの現場を観察したいと思います。



 

 



「先取り」の仕掛け人、テレビ局の広報とは…。

「先取り」というと、テレビ業界では真っ先に「広報・PR担当」が大活躍します。テレビ局にとってテレビ番組というのは商品ですので、その商品を売るためにどのような宣伝をしたらいいのか、マーケティング的な視点を持って考えることが求められます。この重要な役割を担うのが「広報・PR担当」です。番組をうまく宣伝できれば、視聴率に繋がりますし、視聴率が取れる番組には当然、スポンサーがつきやすくなります。結果的に、さらなる番組制作費の捻出実現につながりますし、新たな番組を作ったり、新しい企画を立ち上げたりすることもできるようになります。逆に視聴率が低い番組には、スポンサーがつきにくかったり、ついていたスポンサーが離れてしまったりということが起こってしまうので番組を継続するのが難しくなってしまいます。番組制作には、出演者の出演料はもちろん、スタジオの美術やロケの費用、さらにはスタッフの人件費など、莫大な費用がかけられています。この資金的源泉がまさしく番組制作費であり、スポンサーを獲得して番組制作費にあてることは、テレビ局の経営根幹の一つと言えます。春秋の改編期や年末年始の特番が増えると、視聴率アップにつなげようと、各局とも積極的に番宣を挟みます。最近は、普段テレビを観ない層を意識して、WEBサイトやSNSを使った告知も当たり前になり、一つの番宣素材が「放送」「ネット」「SNS」それに公共交通機関などの「デジタルサイネージ」と「ワンソース・マルチユース」の典型になっています。中にはレギュラー番組の中に、番宣コーナーを設け、そこに新番組の特集を集中的に入れ込む場合もあります。例えば、ドラマなら、主演をはじめとした出演者が、番組の見所やストーリーの展開、さらにはNGシーンをクイズ仕立てにするなど、演出の限りを尽くしてブームアップを図ります。対外的には、番組制作発表を行って各方面の記者を集め、番組制作発表の記事を書いてもらったり、主要な駅に大きなポスターを貼ったりなど、有料の広告枠を使った番宣方法も駆使します。こうした「サブストリーム」をフルに活用することで、番組の「プレステージ」を盛り上げ、話題づくりを仕掛け、ひいては視聴率アップにつなげていきます。
 

制作現場における「先取り」

芸能人が観光地を巡り、地元の飲食店や名所などをめぐる旅番組は、老若男女を問わず楽しめ、根強い人気があります。基本的に、ロケ地を訪れる芸能人さえいれば成り立ちますし、舞台装置などを準備する必要がなく、制作費を3分の1程度に抑えられるので、年々、増える傾向にあります。こうした番組の場合、出演者の出演部分と見頃を迎えた観光地の撮影は、少しスケジュールをずらしたりすることがあります。なぜなら、観光地の場合、旅行客を呼び込むブームアップの側面があるため、佳境を迎える少し前に、放送にこぎつける必要があるからです。その場合、出演者のロケを早めに済ませ、佳境の景色は後から撮影したり、場合によっては、前の年の映像を使ったりします。映像が見あたらなければ、テレビ局の映像資料室から報道の資料映像用に撮影した素材や、観光地の地元の地方局へ協力を仰ぐ場合もあります。情報バラエティに目を転じれば、スポンサーから発売された食品や洋服、日用品などの新商品を番組のコーナーなどで、いち早く紹介するケースが目立ちます。典型的なのは、「ファッションコーデ」と称して、出演者に価格やセンスの競争をさせ、スポンサーについてくれているブランドのニューファッションを盛り上げる…。これも立派な「情報の先取り」と言えます。最近はニュースワイドなどの報道番組でも、新製品紹介コーナーを設けて、社会現象に結びつけようという演出も出始めました。
 

時代を「先取り」するコンテンツに…

今でもテレビは「時代を先取りする」メディアです。一時期ほどではないにしろ、ドラマの決め台詞やキーワードは、放送後、ブームになり、その年の流行語大賞を飾ることも珍しくありません。また、時代が抱えるトレンドを切り取ることで、社会現象を巻き起こす作品もまだまだ存在します。また、情報番組での最新の食やファッションの特集コーナーは、流行を引っ張る牽引車の役割も果たしています。従来、テレビの制作現場では、スポンサー絡みの案件は「是非ネタ」とか「物件モノ」などといって、特別視されてきました。局によっては、報道を中心にした制作現場と営業から厳命を帯びた編成・業務サイドで、こうした案件の扱いをめぐって、激しい綱引きが行なわれた時代もあります。最近はテレビ冬の時代を迎え、物件モノや是非ネタが増えているという印象がありますが、これも捉えようによっては、最新の経済・生活事情の「先取り」と言えなくもありません。換言すれば、こうした営業サイドからの依頼案件に、いかに社会性を持たせ、多くの視聴者から共感を得る番組やコーナーに仕上げることが、現代のテレビディレクターの腕の見せ所の一つといっていいでしょう。あるディレクターの金言に、「番組ジャンルの別を問わず、テレビというメディアは、視聴者の考えている事柄の「半歩先」を捉えることが、ヒットの必要十分条件だ」というのがあります。「現在」では遅いですし、「一歩先」では視聴者がついてこられないリスクを伴います。この「半歩先取り」という微妙な距離感が、現代のテレビ制作の現場に求められていることは間違いなさそうです。
 

「先取り」の一翼は制作会社が支えている

こうしたノウハウは、局はもちろん、実際に制作にあたる番組制作会社にも当然、蓄積されています。人気観光スポットや新商品の物撮りなどの撮影経験もそうですが、取材先のアポをはじめ、ロケが行われている現地での諸々の調整など、所謂、「裏方」的な仕事もプロならではのコーディネートが期待できるでしょう。また、豊富な経験は、時に新たな企画の提案につながります。番組最後のロールスーパーをチェックすると、ジャンルを問わず、ほぼすべての番組が、局と制作会社の共同作業になっています。テレビの生命線ともいえる「先取り」を支えている一翼は制作会社が担っていると言っても過言ではありません。「わくわくどきどき」の先取りを体験したいなら、ぜひ、業界の門を叩いてみては如何でしょうか?
 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 村松 敬太