「進行表」と「台本」の違い

「進行表」と「台本」の違い
2021年12月6日 ninefield

放送をうまく進行するためには「進行表」や「構成台本」が不可欠になります。皆さんが見ている生放送には、必ず進行表と台本が用意されています。進行表は業界ではキューシートと呼ばれることが多く、いわゆる時間管理とコーナーの内容が記されています。一方、台本はキューシートを基に、トークの内容やフリップなどの出し物、さらにはワイプの有無に至るまで、細かく書かれています。今回は進行表と台本の関係性、さらには重要性を探っていきます。



 

 



生放送での進行表は「番組全体の構成」

 進行表=キューシートは、いわば、番組の骨組みを示す設計図です。時間管理やコーナーの内容はもちろん、VTRの本数や中継回線の有無などを記入していきます。そのため、個々のディレクターは作成にはタッチせず、大抵は総合演出やOAデスクが組んでいきます。局によってはタイムキーパーが書くこともあるようです。なぜかというと、特に在京民放の場合はCMや提供の数が絡むため、編成・業務サイドとの連携が必要になるからです。個々のディレクターが編成に絡むと、窓口が分散してしまい、大混乱になります。

 進行表には「番組名」「放送日時」「放送内容」といった基本情報を頭とし、その下に表を作っていきます。表は上から下や左から右に向かって流れる時間軸です。基本となる軸は「映像」「内容」そして「時間」の3本です。ただ、生放送の場合は様々なことが同時にリアルタイムで進行していきますので、出演者のコメントは箇条書きにするなど、できるだけ簡潔にして、あとはカメラの動きやモノの出し入れ、VTRやゲストのタイミングなどを具体的に記していきます。一番大切なのは、一瞥して「話の流れ」がわかるということです。この進行表に話の「起承転結」が反映されますので、「今どこまで話が進み、次の話題は何、そして残り時間はどれだけ?」ということが一目瞭然にならないと、役立つ進行表とは言えません。出演者以外にスタッフが入ればいるほど、進行表は大切です。
 
 ところで、この進行表、フォーマットが決まっていないので、局や番組によって、全く書き方が違います。秒数やコーナーだけの場合もあれば、罫線上に細かく記入してあるものもあり、千差万別です。もっとも、生放送の現場は変更の嵐になるケースが多いので、先述のように一瞥して把握でき、かつ変更箇所を大きく書き込めるレイアウトになっています。
 

生放送での台本は進行が上手くいくためのガイド

先に紹介した進行表が「骨格」とするならば、台本は「血と肉」にあたります。換言すれば、番組進行が上手くいくためのガイドともいえるでしょう。時間やVTRの挿入箇所はもちろんですが、進行表ではフォローできないトーク内容など、それこそ、番組の全貌が詳らかにわかる内容で書くのが基本です。生放送の場合、ドラマほどではありませんが、ガイドラインとして書かれている場合が多くなっています。この他、フリップなどの出し物やワイプの有無などについても記入されていて、まさに、番組の詳細な流れがわかるようになっています。台本に従って行動することで、出演者やスタッフが共通認識を持ち、全体の協調が図られるので、放送はスムーズに進み、まとまりのあるものになります。
 
 台本は担当ディレクターが書くのが通例です。先述の通り、コーナーの尺(長さ)やVTRの本数などは、総合演出ほかのスタッフとの打ち合わせで決まるため、進行表に沿った台本づくりが必須になります。テレビの生放送は秒単位の時間枠の中できっちりと決まっているので、進行次第では、せっかく用意したVTRが飛ばされたり、準備していたコーナーがなくなったりします。こうした事態を想定し、予め、時間調整用にカット候補を必ず用意します。ただし、タイアップだったり、取材対象が協力して頂いた方のVTRだったりした「是非モノ」の場合は極力放送します。

 台本は主として、出演者やディレクターサイドのガイドとみられがちですが、実はカメラマンにとっても、とても重要です。通常は、台本を見ながら、「技術打ち合わせ」をして、細かく書き込んでいきます。CA=カメラアシスタントは技術を交えた打ち合わせに参加することはほぼ無いので、リハーサルで、カメラマンの動きを把握し、メモを取ったりして本番に備えます。台本があることで、カメラ割りやカメラの動き方など細かく知ることが出来ますから、、それを基に「次はこのカットだから、こう動くだろう」などと、予測して動くことができます。

 総合演出など送り出し担当として有り難いのは、あるコーナーが押したから次のコーナーのVTRを1本減らす、話題を1つ削るなど瞬時の判断がしやすい台本です。もちろん、巻いてきた際には、次のコーナーが早めに入ることができるか、また伸ばせそうかなどの判断材料になることも含み置きます。メイク担当やADたちは、台本を基に、CMやVTR中に体勢を立て直したり、VTRあけの準備、出演者たちのドリンク補給やメイク直しなどを行なったりします。諸々、済んだらVTRのリアクション用にワイプ抜きを行ないます。
 

機密情報、デジタル化…。変わりゆく現場の風景

最近では時代の流れによって、台本もデジタル化されるケースも増えています。タブレットに台本データを取り込めるので、指でスライドさせるだけで楽に台本が読めますから、紙をペラペラめくる必要がありませんし、タブレットの機種によっては、専用ペンでの書きこみも可能です。マジックアームで台本入りのタブレットを三脚に取り付けているカメラマンも増えました。画面は光が会場の邪魔にならないよう、白と黒が反転しています。
 
 ちなみに台本は番組によって、重要な機密情報扱いになります。例を挙げると、ロケへ行ってみたら、登録済のスタッフリストに基づいて、台本には所属会社名や氏名、さらには緊急連絡先が印刷済みだったということがあります。また、ロケ終了の際には、使ったトランシーバーと台本を返す際、返却リストにチェックを入れて、返却するという厳重管理しているケースもあります。近年は番組のファンを当て込んで、使用済みの台本が無許可のまま、オークションへ出品されるケースもあり、要対策になっています。このように、時代が進むにつれ、従来にはなかった新たなメリットや注意点も顕わになってきました。
 

台本は動画でも生かせる

これまではプロの現場を中心に進行表と台本の重要性を紹介してきましたが、昨今、激増している動画投稿サイトへの投稿にも、進行表と台本の有無が出来栄えに大きく影響してきます。特にeコマースなどで、動画をビジネスに活用しようとする場合、行き当たりばったりの動画制作では、売り上げ増に結び付きません。もちろん、生放送の場合、一言一句、トレースすることは不可能ですが、起承転結の構成を大まかに決めておくだけでも、視聴者にとっては格段に見やすくなり、購買意欲に結び付くでしょう。これからビジネスに動画を活用しようとしている人は、ぜひ、プロのアドバイスを依頼してみては如何でしょうか。きっと役立つアイデアを提供してくれるはずです。
 

テキスト:ナインフィールド
ディレクター 林 要