作り方から違う。テレビCMと動画広告の違いとは?

作り方から違う。テレビCMと動画広告の違いとは?
2020年6月15日 ninefield

パソコン、スマートフォンなど、テレビとは違う情報源が登場し、インターネット、YouTubeなど、やはりテレビとは違うメディア媒体が広がりを見せる中、動画による広告・宣伝もテレビとは違った方法でシェアを伸ばしています。

インターネットの動画広告は、テレビCMとはかなり違った方向に進化しています。今後は映像業界も、これをビジネス・チャンスとして捉える必要があるでしょう。
そんな動画広告の現状と将来性を検証してみましょう。



 

 



続々と新規参入、インターネット広告の仕組み

動画広告の中身に目を向ける前に、動画広告がインターネット上に配信される仕組みを確認しておきます。まずは主な広告の種類から。

①インストリーム広告
YouTubeの動画が始まる前に再生されたり、動画の途中で予告なしに再生される広告です。多くはスキップ可能な広告ですが、テレビCMと同様にスキップできない短時間再生の広告もあります。

②インバナー広告
サイトを開いた時に、通常のバナー広告同様に再生される動画です。ユーザーの目的を問わず、広範囲なサイトで多くのユーザーを対象に配信されます。

③インリード広告
あるサイト内でページをスクロールした時に、途中で自動的に再生される動画です。スマートフォンで多く利用され、ユーザーが興味を持った場合、そのまま視聴される可能性が高くなります。

次にインターネット広告への課金方法もチェックしておきます。費用対効果を考える上でも重要な要素です。

①CPV(cost-per-view)
動画広告が1回視聴されると課金されるパターンです。視聴時間の設定により、何秒以上で1回の視聴とみなされるのかが変わります。

②CPCV(cost-per-completed-view)
1編の動画広告が完全に視聴された時に課金されるパターンです。

③CPM(cost-per-mille)
再生時間を問わず、動画広告の再生1,000回ごとに課金されるパターンです。

④CPC(cost-per-click)
動画広告が1回クリックされる度に課金されるパターンです。

このような動画広告の種類と課金方法を組み合わせることにより、最近では中小のベンチャー企業や、個人商店でも積極的にインターネット広告を活用するようになりました。今後もさらに利用が増えると思われます。

 

急成長する動画広告市場

現在インターネット広告費は2兆円規模となり、2018年にはテレビ広告費を抜いて伸び続けています。その内動画広告は2018年ではおよそ1,800億円でしたが、2020年には2,900億円にまで達する見込みです。

また市場の予測によると、今後も動画広告の割合は継続的に増え、2024年には5,000億円規模にまで成長すると考えられています。これはスマートフォンの急速な普及と高い関連性があるようです。

今では年代を問わずほとんどの人がスマートフォンを使い、若年層のみならず高齢者層でもYouTubeなどの動画を日常的に楽しんでいます。さらに商品の購入前に動画広告を確認したり、商品やサービスについて動画でチェックする人は、インターネット利用者の半数以上に上ります。

これを制作者側から見てみると、動画広告を利用するユーザー層が広がるにつれ、動画1本あたりの制作費は下がる傾向にあります。これが映像制作全体で価格破壊を引き起こしてしまうと、業界にとっては死活問題になるかもしれません。

ところが動画広告制作に前向きな映像制作企業の中には、ここ数年で急激に売り上げを伸ばす会社も出てきています。確かに1本あたりの制作費は下がっても、全体的な需要が大幅に増えていることから、効率的に制作すれば充分事業拡大のチャンスになるのです。

 

テレビCMと動画広告との違い

テレビCMとインターネット動画広告の違いの一つが広告費です。テレビCMの放映権は、数百万円から数千万円が一般的です。一方のインターネット動画広告は、最低1日数千円程度から始められます。

CPCのように1クリックではじめて課金される設定なら、興味がある人のみを対象にすることで、最低限まで広告料を抑えることも可能です。このようにターゲットを絞れることも、インターネット動画広告が持つ強みと言えます。

テレビCMの場合も詳細な分析から、最も効果的に視聴者の興味を喚起するため、CMの放映時間帯や放映回数などを設定することができますが、特定の視聴者に絞ってCMを見せることはできません。どうしても不特定多数への同時放映の形になります。

しかしインターネットでは、Googleをはじめとする情報分析サービスにより、ユーザーの関心や閲覧情報などを基にして、特定のユーザーにターゲットを絞った広告配信ができます。これはテレビCMと比較すると、非常に効果的な宣伝方法です。

このように従来のテレビCMとは違ってインターネット動画広告は、極めて低い予算からでも、効率的に顧客に向けた情報発信が可能です。費用対効果が高いことを考えても、今後さらに需要が高まることになるでしょう。

 

動画広告のメリット

同じインターネット広告の中でも、動画とそれ以外の広告ではユーザーからの反応に大きな違いがあります。まず広告を動画にすることによって、ユーザーの興味を高める効果が期待できます。

動画は視覚と聴覚とに同時に訴求できるため、ユーザーが理解しやすく印象に残りやすいというメリットを持っています。この点はテレビCMと共通性があり、ユーザーはその広告を繰り返し視ることで、商品やサービスに対するイメージを頭の中に保存するのです。

今後動画広告が増えるにつれて、ユーザーは通常の広告には興味を示さなくなる可能性があります。その結果さらに動画広告の需要が増加すると推測されます。

 

動画広告作成のポイント

さて映像制作業界としても、できる限り迅速にインターネット動画広告に対応しなければなりません。ただしこれまでのようなテレビCMと、同じスタイルで作ることはできません。テレビCMよりもはるかに小さな予算枠で作るため、動画広告の制作にはいくつかの重要なポイントがあるのです。

まず1本あたりの制作費が制限されるため、制作はなるべく効率的に行い、制作数で結果を出す必要があります。極端な例では1万円、5万円というニーズにも対応しなければなりません。裏を返せば手間をかけられないということです。

そのため撮影はせず、すでに手元にあるデータを使って動画を作ることになるかもしれません。これも極端な例えですが、アフターエフェクトでテキストを加工して、BGMのみで仕上げるようなパターンもあり得るわけです。

それでも広告として、視る人を引き付けるためには何らかの工夫が必要です。極めて短時間で広告の内容を印象付ける必要があるため、瞬間的に理解できて同時に強いインパクトを与える映像が求められるでしょう。今までのCM制作とは全く別の制作手法になるはずです。

インターネットの世界では、手間をかけた動画は必要とされず、シンプルに伝えたいことだけを前面に出した方がユーザーの興味を引きやすいと言われます。これは一見するとテレビCMとは正反対の路線に思えますが、実はそうではないのです。

テレビの黎明期、そこで流れるCMは商品名を繰り返したり、最初に強いインパクトを与えて視聴者を引き付けるパターンがほとんどでした。インターネットの動画広告は、いわば原点回帰しているのかもしれません。

 

動画広告ビジネスで広がるチャンス

これから情報通信社会は5Gへと移行することが確実視されています。より高速でより手軽に情報を得られる時代を前に、インターネットのさまざまなコンテンツは順次動画化するでしょう。

確かに一歩間違えれば薄利多売のデッドスパイラルに陥りそうですが、映像制作業界としてはこれを危機と捉えるか、またはチャンスと捉えるか、少なくとも今のところは需要が供給を上回る売り手市場であることは間違いないようです。

 

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 笹木 尚人