オンライン授業で見えてきた 効果的な授業動画の作り方

オンライン授業で見えてきた 効果的な授業動画の作り方
2020年6月22日 ninefield

コロナウィルスのパンデミックは、教育環境にも大きな影響をもたらしました。経済活動と同様に、子どもたちへの教育は絶対に停滞させてはいけません。
それを避けるために教育現場では、一次的にオンラインによる授業を試行しましたが、これが新しい授業形態へのヒントになりました。そして今学習塾も、動画を使った授業の可能性を見直し始めています。



 

 



コロナウィルスがもたらした教育のオンライン化

人と人とが直接対面できなくなったことで、学校や学習塾での通常授業は事実上不可能になり、これからの社会を担う子供たちの教育が深刻な危機に直面しました。
この状況を救ったのがICTの進歩で、教育現場ではオンラインを活用して、子どもたちの学習環境を整えることができました。

今回のコロナウィルス騒動で注目されたのが、ビデオ会議システムとして利用されていた「Zoom(ズーム)」です。このアプリケーションによって、講師1対生徒2の個別型授業でも、講師1人に対して複数の生徒が受講する集団型授業でも、制約はあるものの柔軟に対応できました。

現在学校や学習塾が通常授業を再開したため、オンライン授業はひとまずその役目を終えました。しかし多くの学習塾は今回の経験から、動画による学習指導にある種の手応えを感じたようです。

 

学習塾での動画活用状況

これまでも学習塾では、動画を使った授業を行ってきました。いわゆる「衛星予備校」と呼ばれるシステムがその先駆けで、プロ講師の授業を動画としてデータベースに保存し、生徒のニーズに合わせて動画を配信する仕組みです。

その他にも一部の学習塾では動画授業とは別に、オンラインで講師と生徒をつなぎ、双方向でのやりとりが可能な遠隔授業システムも運用されています。
しかし最近になって大手の家庭教師派遣サービスが、大規模な動画授業の配信を始めたことから、今後学習塾でも再び動画授業の需要が高まる可能性があります。

 

オンライン動画授業の問題点

動画による学習システムを積極的に活用するなら、動画授業の特徴を知っておく必要があるでしょう。これはより役に立つ動画を作るためにも重要なことです。

動画授業にはかなりの歴史がありながら、現在でも学習塾の主流は講師と生徒との対面授業です。実際に動画授業をとり入れた場合、実はデメリットになるような問題点がいくつか指摘されています。その点を検証してみましょう。

①一方向からの授業になるパターンが多い

プロ講師による動画配信は、基本的に動画として制作されたものを生徒が選択して、一定の時間集中して視聴する仕組みです。いわばテレビやYouTubeを視る感覚と一緒で、一方向から流れてくる情報を受け取るだけです。

さすがに一流プロ講師の動画になると、思わず授業に引き込まれて全編を集中して受講でき、見終わった後には理解できたような気分になります。ところがこの分かったような気分が、むしろ生徒にとっては問題なのです。

学習塾で生徒が受講する動画授業にはいくつかのパターンがあります。基礎からの総合的な復習をするコースや、苦手な単元に絞って学力を補強するコース、そしてハイレベルな学力を身につけるための特訓コースなどです。

ある程度の基礎学力が身についている生徒なら、動画授業で理解力を高めることは可能です。しかし学習塾に通う生徒の大半は、自力で勉強を進めることが難しい生徒なのです。

②生徒の理解度に合わせて進めることが難しい

直接講師と対面して進める授業と比較して、動画授業の最大のデメリットは、生徒の理解度を確認しながら進めることができない点です。視聴する生徒が理解できているかどうかは抜きにして、動画授業はどんどん進みます。

特に基礎学力が低い生徒の場合、一度説明を聞いただけでは本質的な部分をつかめません。動画を見れば見るほど、分からない問題は雪だるま式に大きくなって行きます。これでは結局1つの動画授業を見終わるたびに、生徒にとっては分からないことが増え続けるだけです。

③質問ができない

生徒にとって動画の向こう側にいるのは、一方的に説明を続ける講師です。授業の途中で分からないことがあっても、質問することができません。生徒は疑問点を抱えたまま授業を終え、分からなかった点は分からないまま残ります。

このような動画授業の一方向性という特徴は、学力レベルの高い生徒にとっては問題にならないかもしれませんが、基礎学力の低い生徒にとっては大きなデメリットです。この点を改善しないと、今後も動画授業の利用拡大は難しいかもしれません。

 

動画授業活用のメリット

デメリットをややクローズアップしすぎましたが、動画授業には多くのメリットがあります。実際に動画を体験すれば確認できることなので、ここでは主なメリットだけ簡単に紹介します。

・学習スケジュールが立てやすい
・さまざまなカリキュラムに対応できる
・繰り返し何度も視ることができる
・スマートフォンでも手軽に受講できる
・場所や時間を選ばない
・講師による指導のばらつきが少ない

こうしたメリットを総括すると、動画授業が持つ強みは手軽に受講でき、多くの選択肢から生徒の目的と学力に合った授業を選べることでしょう。
特に現代の子どもたちはインターネット環境に慣れているので、使い方次第では通塾して対面授業を受けるよりも高い効果が得られるかもしれません。

 

動画授業の作成ポイント

ここまで動画授業のメリットよりも、デメリットに多くの説明を割きましたが、それはこれからの動画授業のカギを握るのが、デメリットを意識した動画制作にあるからです。
デメリットを解消してメリットに変えられれば、学習塾での動画利用は大きく広がる可能性があるのです。

まず生徒の理解度については、生徒の学力レベルに合わせて動画をコース分けすることで、理解不足のまま進んでしまう危険性を回避できます。1つの動画授業に、あまり多くの内容を詰め込まないような工夫も必要です。

動画には直接イメージで理解できるという利点もあるので、積極的にアニメーションや文字テロップを使って、講師の説明以外に視覚的なサポートをプラスすることも効果的です。YouTubeで人気の動画のように、印象に残る映像作りをとり入れても良いでしょう。

さすがに動画での双方向性は難しいので、生徒の疑問や質問に対応することはできないかもしれません。しかし動画授業を階層構造にして、1度受講した動画の中で理解できなかった部分を、そのサポート動画で確認できるようにすれば、生徒の理解不足を減らすことができるでしょう。

 

まだまだ広がる動画の活用法

学習塾にとって動画の利用は、授業に限られたものではありません。現在多くの業界が以前よりも積極的に動画を利用するようになっています。インターネットの普及に加えて、誰もがスマートフォンを持つようになったことが、動画の利用拡大に火を点けました。

スマートフォンは子どもとその保護者も持っているので、学習塾にとっては生徒募集のための巨大市場と言っても良いでしょう。動画広告の有効性は他の業界ですでに証明されているため、新規生徒の獲得にPR動画を活用しない手はありません。

またPR動画は講師の募集にも効果を発揮します。その学習塾の魅力や雰囲気を動画で伝えられれば、他の募集方法よりも多くの人材を発掘できるかもしれません。良い講師が集まれば、授業の質が向上し業績アップにもつながるでしょう。

学習塾は講師と生徒とのコミュニケーションが基本ですが、発想を変えれば動画授業を商品として販売できる可能性もあります。他にもアイデア次第で、さまざまな動画の利用法が見つかるはずです。

ただし効果的な動画をシステムとして利用するには、綿密な立案・企画作業が求められます。そのためには学習塾側の視点に、映像のプロの発想を融合させる必要があるでしょう。

PR動画だけでなく、授業用動画にも映像制作の技法をとり入れることで、もっと学力アップに効果的な動画授業ができるかもしれません。映像制作側にとっても、新しい動画の世界を広げるチャンスです。子どもの学力アップを共通の目標にすれば、まったく新しい動画の活用法も見つけられるのではないでしょうか。

 

テキスト:ナインフィールド
プロデューサー 松野 一人